オペラ「ドン・カルロ」 ヴェルディ作曲

イタリアの作曲家ヴェルディ(1813〜1901)が、1865年から66年にかけて作曲、
そしてその後20年という長い年月をかけて
何度も改訂を加えた渾身の作品、「ドン・カルロ」。
(ヴェルディと同じ1813年に生まれたドイツの作曲家ヴァーグナーのオペラ
トリスタンとイゾルデ」がミュンヘンで初演されたのは、1865年である。
なお「トリスタン」の作曲年は1857〜59年。)
ドン・カルロ」の原作は、ゲーテと並ぶドイツ古典主義の文豪、
シラーの代表作「ドン・カルロス」。
シラーの最も著名な作品は、ベートーヴェン「第九」交響曲
高らかに歌い上げられる、人間愛がテーマの「歓喜の歌」だろう。
ヨーロッパ激動の時代、自由を希求するシラーは、
亡命生活の中で「ドン・カルロス」を書いたという。
それは1787年
目前に、フランス革命が迫っていた。
ドン・カルロス」ではスペインが舞台であり、国王、王妃、皇太子など、
主な登場人物(ポーザ侯爵ロドリーゴ以外)は、皆、歴史上実在した人物だった。
絶対君主による圧政、宗教による弾圧に苦しむフランドルの民に、
自由を与えようとするロドリーゴと皇太子ドン・カルロスを、
シラーは魂を込めて描いた。
その戯曲「ドン・カルロス」は、オペラとしてパリ・オペラ座で上演されるため、
フランス人のフランソワ・ヨーゼフ・メリとカミーユ・デュ・ロークルによって
フランス語の台本にされる。
そこに音楽をつけたのが、イタリア人のヴェルディ
ドイツ人によって書かれたスペインが舞台の戯曲が、フランス語の台本にされ、
イタリア人によって作曲され、オペラとなる。
オペラ「ドン・カルロ」には、そのような興味深い成立の過程があった。
メトロポリタン・オペラ2011年日本公演。
主人公ドン・カルロを演じる予定だったスター歌手、ヨナス・カウフマンが降板。
代わって、韓国のヨンフン・リーが舞台に立った。
ヨンフン・リーは2007年、フランクフルト歌劇場でまさにドン・カルロ役でデビュー。
それを皮切りに、世界中でドン・カルロ役を演じているという。
エリザベッタと運命的に出会うフォンテンブローの森に姿を現した時から、
皇太子らしい品格を漂わせ、
やはり代役で登場したマリーナ・ポプラフスカヤとの二重唱は、
とても美しく印象的だった。
また、ルネ・パーペ、ドミトリー・ホロストフスキーといった、
人気男性歌手たちの中にあっても、大きな存在感を示し、
苦悩を抱え、時に激しい感情をあらわにするドン・カルロ
リアリティーをもって演じた。
インタビューによると、キリスト教徒のヨンフン・リーは、
かつて神に、「なんで韓国人に産んだんだ!」と問い、辛くて泣いたという。
その後、「『韓国人のヨンフン・リー』という枠をこえて、
命そのものの存在として堂々と生きてみよう、と
思うようになりました」とのこと。
「良い点としては、彼らが1回ですんなり把握できることを、
 私が10回ぐらい練習しなければならない、としますね。
 だとしたら、私は、彼らよりもずっと多く、その同じことを少しずつ、
 深めるチャンスをもっていることになります」。
大変な努力家なのである。