オペラ「ランメルモールのルチア」 ドニゼッティ作曲

イタリアの作曲家ドニゼッティ(1797〜1848)は、
ヴェルディプッチーニが活躍する以前の、19世紀前半のオペラ作曲家。
未上演の作品も含めると、70作以上のオペラを書いたという。
この「ルチア(1835)」や「愛の妙薬(1832)」は、
今日でも、特に人気の高い演目だ。
18世紀に、ベル・カント(美しい歌)唱法というイタリアの歌唱法が確立され、
ドニゼッティの時代には、オペラ歌手によって歌われる
旋律の美しさが追求された。
ランメルモールのルチア」では、
政略結婚の犠牲となった清らかな令嬢ルチアが、
望まぬ相手と結婚させられた上、
結婚式に乗り込んだ恋人エドガルド(しかしルチアの一族の政敵)から、
不実だとなじられ、発狂する。
結婚相手を刺し殺し、純白のドレスを血まみれにして、
よろめきながら現れ、ただ一人歌い続ける「狂乱の場」。
コロラトゥーラ唱法という、華麗な装飾をちりばめた歌い方により、
ルチアの動転し、錯乱する心が表現される。
ニューヨークのメトロポリタン・オペラの、2011年日本公演。
ルチア役は、今回日本デビューを果たした、
ドイツ出身のディアナ・ダムラウ
透き通った声で、圧倒的な超絶技巧を駆使する。
玉のように転がるフルートの音と呼応し、時に重なる。
まるで鳥のさえずりのようだ。
その上、よろめくように、くるくると回りながら、歌い続けるのだ。
このオペラの原作は、17世紀に実際に起きた
花嫁による殺人事件を題材に書かれた小説である。
今回、ディアナは、精神科医と共にルチアの性格を探り、
また、最も美しく表現するために、どのように歌うか研究したという。
約15分、血まみれで狂乱する様を演じるディアナは、
想像を超えるほど真に迫った歌と演技を見せてくれた。
この日本公演でも、多くのスター歌手たちが、来日をキャンセル。
ルチアの恋人、エドガルドを演じるはずであったジョセフ・カレーヤも、
舞台に姿を見せなかった。
(代わりに、新星アレクセイ・ドルゴフが出演。)
その中にあって、出産したばかりのディアナは、
愛児アレキサンダーちゃんを連れて、来日。
インタビューによると、
「出産を機に声も少し変わったようで、
 どの音域でも以前より響きが丸く温かくなっています」
という。
声の美しさと表現力に、ますます磨きのかかることが、とても楽しみだ。