「路上 On the Road」展

東京国立近代美術館で「路上 On The Road」展が開かれている。
通常、絵画や写真で表現されるのは、
ある空間を四角く切り取った世界だ。
けれども、時間的にも空間的にも、
細長くずっと続くイメージを持つ
「道」を表現するなら・・・?
この展覧会には、はっと気づかされるような様々な工夫や
仕掛けを持つ作品が、並んでいる。
特に面白かったのが、木村荘八作「アルバム・銀座八丁(1954)」。
和光→木村屋パン店→山野楽器店 月ヶ瀬→御木本真珠店→(中略)→
教文館ビル→・・・。
もちろん、まだまだずっと続く。
これは、銀座の中央通りに並ぶ店を、
撮影し続けた写真作品だ。
写真撮影は、鈴木芳市によるという。
木村荘八編著「銀座界隈」という書籍の別冊として
発表された。
(現在でも古本で入手可能のようだが、
とても高価だ)。
この1954年という、半世紀以上も前の銀座の風景が、まず興味深い。
そしてこの作品は、全長が約4.5mもある。
細長い作品なのだ。
建築家の西澤徹夫さんがデザインした、
長い長い特製の展示台の上に載った、
銀座中央通りの写真を、丹念に見ていく。
展示台に沿って、私自身も歩いて行く。
1950年代にタイムスリップして、
てくてく歩いているような感覚だ。
撮影されて小さく写った店を、丁寧に見るので、
4.5mの作品を見終わるまでに、かなりの時間がかかった。
この頃の銀座には、まだ高いビルがなく、
空の存在感が大きいように思う。
この作品の12年後、アメリカ人のエド・ルシェーが
同じように通りの建物を撮影し、
約7.5mの作品に仕上げた。
「サンセット・ストリップ沿いのすべての建物(1966年)」だ。
この二人の作家は面識がなく、互いの制作についても知らなかったらしい。
二つの作品が、共に長々と並べられて展示されるのは、
世界初のことだという。
私にとっては、銀座の作品の方が面白い。
子供の頃、学生の頃、そして現在。
私は何度も銀座を訪れている。
買い物をするため。
楽譜やCDを探すため。
映画を観るため。
先輩方の展覧会に伺うため。
元生徒たちとケーキを食べるため。
大学で教育法を学んでいた時は、
銀座の小学校で、見学をさせていただいた。
「沈黙を聴く」という音楽の授業は、
当時、とても画期的だった。
大学卒業時の謝恩会も、銀座で開いた。
私は幹事のひとりだったが、
以前、先輩が結婚披露パーティーを行ったレストランを、
会場にしよう! と提案したからだ。
結婚披露パーティーでは、私はひたすら
BGMのピアノを弾き続けていたのだ。
(ご馳走を、あまり食べることができなかった)。
その店は、とても素敵だったが、もうない。
銀座についての様々な記憶が、私の中で、
時間という道のようになって、続いている。