小岩悦也さんの新作オペラ 『桃太郎』

9月最初の日曜日の午後。
なおも猛烈な暑さの続く東京・横浜は、約35度という中、
照りつける強い日差しも何のその、
横浜市開港記念会館講堂には
大勢の聴衆が集まった。


横浜室内合奏団の定期チャリティー・コンサート。
主宰のフルーティスト、佐藤大祐さんが、
東日本大震災の被災地を訪れた話、
これからの活動に対する決意を述べる。


合奏団の、音楽を届ける活動が、
今後も、被災された方々の心のともしび、生きる喜びとなることを、
私も祈らずにはいられない。


この合奏団でソロを演奏する
佐藤さんのご令嬢のヴァイオリニスト、佐藤英莉香さんが、
英国王立音楽院ロンドン大学をご卒業されたことを契機に、
CDを発表する、・・・
そのような喜ばしいニュースも交えながら、プログラムは進行。


いよいよ、東京藝術大学出身の新進気鋭の作曲家、
小岩悦也さん作曲のオペラ『桃太郎』の初演である。


脚本を手がけた佐藤大祐さんが、まずマイクを手に登場。
登場人物はおじいさん、おばあさん、桃太郎、
犬、猿、きじ、鬼・・・といるのに、
本日出演の歌手は3名しかいない、と告げる。(しかも全員男性)


そして何と、人数不足のためなのか、
作曲者の小岩さん自身も出演するという。
(歌はどうするのか・・・?)


ナゾだらけのまま、いよいよオペラは始まった。
合奏団による軽快なリズムの序曲。
タンタカタッタッ・タカタカ、タンタカタッタッ・タカタ〜♪
心がはずんでくる。


舞台に、杖をついたおじいさん、
おだんご状に結った髪に、丸いかんざしを刺したおばあさん登場。
(マンガの「いじわるばあさん」そっくり?! )


♪「むか〜しむ〜かし、その昔〜、
  おじいさんのこのわしと〜、おばあさんのこのわしが〜
  楽しく仲良く暮らしてた〜」


二人のコミカルな雰囲気に、会場から思わず笑いがもれる。


♪「ふたりはとっても貧乏で〜、食べるものなどありゃしない〜、
  ・だけど結構、太ってる〜〜〜」


ついに会場は大爆笑!


おばあさんの腰の高さ以上もある、大きな大きな桃が流れて来て
桃太郎が誕生。


♪「ぼ〜くの名前は、ももたろう〜
  正義の味方のももたろう〜
  マダムの味方のももたろう〜♪♪」


会場のマダムたちは、大喜び。


♪「この世の中を良くするために
  桃に乗って、やって来た〜」


桃太郎は舞台から降りて来て、会場をめぐり、
そしてなんと、名刺を配り始めた!


「桃太郎と申します」


礼儀正しいというのか、何と言うのか・・・
名刺をもらったお客さんは皆、ニコニコ顔。


桃太郎にしっかり働いてもらおう、というおじいさんのもくろみは、当てが外れ、
鬼ヶ島へ鬼退治に行く桃太郎は、
“時間の都合上、大至急!”と、きび団子をせがみ、
おばあさんは“レンジでチンした団子”を、桃太郎に渡す。


大きな大きなきび団子を片手に、桃太郎は
曲に合わせて、意味もなく? 腰をフリフリしながら
鬼ヶ島へ。


まだストーリーは始まったばかりなのに、
1週間分まとめて笑ったような感じだ。


犬、きじ、猿が登場。
4人は、船のようにも見えるけれど、
底の抜けた箱のようにも見えるものに乗って、いざ出発。


さて、鬼ヶ島で出迎えたのは、2人の鬼。
派手なトラ柄のパンツをはいている。
歌手は3名しかいないはずなのに、なぜか次々と登場人物が現れ、
ストーリーはどんどん展開されていく。


桃太郎は鬼に向かって、「許しはしね〜ぞ〜〜〜」。
きじもそれにならって、
「このきじも、許しはしないぞ! 」と叫んだ途端、
“桃太郎ストーリー”は、とんでもない方向へ迷走。


2人の鬼のはさみうち。
追い詰められたきじは、“焼き鳥”にされてしまうのか?!


まさかまさかの大ドンデン返し(?!)の末、
物語は、ようやくハッピーエンドへ。


喜びいっぱいに歌うおじいさん、おばあさん、桃太郎、そしてきじ。


♪「正義の味方の桃太郎〜
  みんなの平和を、ありがとう〜
  みんなの平和を、ありがとう〜〜〜」


日本昔話を代表するこの冒険ストーリーが
酷暑を笑いで吹き飛ばすコメディとなり、
お客さんは、みな満足。


作曲者の小岩悦也さんは舞台で歌ったのか・・・? については、
再演の時、ぜひお確かめください!