映画「オーケストラ!」

渋谷Bunkamuraのル・シネマで
映画「オーケストラ!」が上映されている。
普段クラシック音楽に馴染みのない人でも、
大笑いして楽しめる作品だ。
ロシアのボリショイ劇場で、
しがない清掃係をしている中年の男アンドレイは、
実は若い頃、天才指揮者と言われた人物。
支配人の部屋を掃除している最中、
パリのシャトレ座からオーケストラへの
公演依頼のファックスを目にする。
アンドレイは、昔のオーケストラ仲間を訪ねて回り、
ニセのオーケストラを結成、
ホンモノになりすまして、パリへ乗り込む。
そのいきさつが、なんともユーモラスに、
面白おかしく語られる。
ミヘイレアニュ監督によると、
ニセのボリショイ管弦楽団
香港で公演するというでき事が、
実際にあったという。
監督は、そのでき事を元に脚本を書くが、
アンドレイが指揮者の地位を追われたのは、
ボリショイ管弦楽団で、ユダヤ人奏者の解雇が行われた時、
アンドレイがユダヤ人たちを擁護したからという設定を作った。
そのため、この映画は根底に
大きな社会的テーマを抱えることとなり、
登場人物たちの心の動きをリアルに描いた
見ごたえのあるものとなった。
実は、ミヘイレアニュ監督は、
ルーマニア生まれのユダヤ人。
監督の父は、ナチス強制収容所を脱走。
監督自身は30年前、22歳の時に亡命し、
イスラエルを経てフランスに落ち着いたという。
この映画では、ロシアとフランスが舞台なのであるが、
ロシアでのシーンのほとんどは、ルーマニアで撮影された。
赤の広場の撮影については、
半年前から申請していたにもかかわらず、
撮影前日になっても許可が下りなかったが、
アンドレイ役の俳優の仲介によって、
奇跡的に撮影可能になったという。
むしろ、この映画の内容を考えると、
よく許可が下りたとも思うのだが・・・。
この映画のハイライトは、ニセモノ・オーケストラが
パリ・シャトレ座で演奏するシーンだ。
主要な登場人物、フランスのスター・ヴァイオリニスト、
アンヌ・マリーが、
アンドレイ指揮するニセ・オーケストラをバックに、
チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を奏でる。
めまいがするほどヒドい、そして感動的なオーケストラの響き!
(詳しくは、映画をご覧ください)
スターとニセモノ、洗練されたフランスと泥臭いロシア、
様々な対比の構図が描かれるが、
最後に驚くべきことが明かされ、
映画は収束に向かう。
シャトレ座では、”究極のハーモニー”が鳴り響く。
監督は”究極のハーモニー”とは、
「映画のロシア人たちが、
 社会から仲間はずれにされた後で見出す”希望”」、
「夢を見る力」
と考える。
私たちの誰もが、人生の中で大きな困難に直面し、
挫折を経験する。
けれども逆境にあっても、なんとかもう一度立ち上がろう、
そういう勇気の湧いてくる映画だ。