オペラ「ラ・ボエーム」 (プッチーニ作曲)

初来日のトリノ王立歌劇場(イタリア)による、
オペラ「ラ・ボエーム」。
イタリアの作曲家、プッチーニ(1858〜1924)の、
30代半ば頃の作品だ。
原作はフランスの作家、アンリ・ミュルジェの自伝的小説、
ボヘミアンたちの生活情景」。
舞台となるパリに、行ったことがないと言われる
プッチーニだが、ミラノに出て、
王立音楽院(現在のヴェルディ音楽院)で学んでいた頃、
5歳年下のマスカーニと下宿を共にし、
貧乏生活を送っていた。
その自らの経験が、「ラ・ボエーム」に反映されているそうだ。
1896年、初演を指揮したのは、トスカニーニ
当時29才という、巨匠の青年時代のことだ。
そして、初演をした歌劇場こそが、
このトリノ王立歌劇場なのであった。
今回演出したジュゼッペ・パトローニ・グリッフィは、
温かい共感のまなざしを持って、
この時代の、貧しいながらも夢を持って生きる
若者たちを描く。
屋根裏部屋や雪景色の、抑制の効いた落ち着いた色彩も、
柔らかい光を秘めている。
恵まれない境遇にあり、病に冒されてもなお、
信仰心を忘れず、周りの人を思いやり、
死の時まで感謝の気持ちを持ち続けるヒロイン、
お針子のミミ。
百合やばらを刺繍し、夢見るミミを演じる
バルバラ・フリットリの、何という優しく清らかな声。
かつて、「ミミはもう歌わない」と告げたこともあったというが、
学生時代からの友人、トリノ王立歌劇場の音楽監督
ジャナンドレア・ノセダの説得で、
この公演が実現したという。
ロドルフォに出会い、ときめき、はにかむミミ。
クリスマス・プレゼントに、ばらの飾りのついた
帽子を買ってもらって、華やぐミミ。
自分の死期を知った時の、自ら別れを告げる時の、
そして、息を引き取る時のミミ。
ミミが実在したら、まさにこうであっただろうというイメージを、
バルバラ・フリットリは、心の中に残してくれた。