オペラ「トスカ」 (プッチーニ作曲)

ニューヨークのメトロポリタン歌劇場
上演されたオペラの映像が、
映画館で観られる「METライブビューイング」。
8月末頃まで、東銀座の東劇で、2006年以降の作品の
アンコール上映が行われている。
「トスカ」は、イタリアの作曲家プッチーニ(1858〜1924)の
40歳前後の頃の作品。
前作「ラ・ボエーム」、「トスカ」、次の「蝶々夫人」は、
プッチーニの三大歌劇と呼ばれており、
現在でも数多く上演され続ける、人気作である。
前作「ラ・ボエーム」では、若者たちの等身大の生活が描かれるが、
「トスカ」は1800年のローマが舞台。
フランス革命から10年たった、ヨーロッパ激動の時代である。
ラ・ボエーム」で、心優しいミミを中心に、
繊細な心の動きを綴る音楽を書いたプッチーニ
この題材は自分にふさわしくないのでは、と
不安になることもあったという。
当然ながらふたつの作品は、全く違った性格のものとなった。
人の感情のプラス面とマイナス面は、
表裏一体とよく言われるが、
恋人カヴァラドッシを一途に愛するトスカは、
冷酷で卑劣な警視総監スカルピアの策略にはまり、
情熱を燃やすのと同じくらい激しく、
嫉妬の炎を燃やす。
それがきっかけで、トスカ、カヴァラドッシふたりの
死に至る悲劇が起こるのであるが、
「トスカ」の音楽では、そのような様々な激しい感情が
リアルに描き出されて、
オペラの力、というものを、まざまざと見せつけられる。
スカルピアの、力ずくでトスカを我が物にしようとする、
そのおぞましさ、むごたらしさなど、
ここまで音楽で表現できるのか、
と、改めて感じる。
ところで、偶然であるが、
先日観たトリノ王立歌劇場の「ラ・ボエーム」のロドルフォと、
このメトロポリタン歌劇場の「トスカ」のカヴァラドッシを、
両方ともマルセロ・アルバレスが演じていた。
ロドルフォは詩人、カヴァラドッシは画家であり革命家。
プッチーニが、この全く異なる二人のヒーローに、
どんなアリアを歌わせるのか、
ということと同時に、
アルバレスが、この二人のヒーローのアリアを、
どう歌い分けるのか、
ということにも、興味が尽きない。
夢見がちで、揺れ動き、戸惑い嘆くロドルフォに対し、
不屈の精神で、自由を求めるカヴァラドッシ。
毅然とした革命家の魂を、
アルバレスは、強く重い声で表現していた。
オペラ歌手として、様々な人物の人生を生きるアルバレスだが、
彼自身の
アルゼンチン出身
 家具工場を経営していたが、一念発起してイタリアに移住。
 コンクールに優勝して、同年いきなりデビュー」
という人生は、もしかすると、オペラ以上に面白い。