渡辺俊幸さんが指揮・プロデュースしている
日本フィルの「シンフォニック・エンタテインメント」。
東京芸術劇場で行われた公演に、
矢野顕子さんが、ゲスト出演した。
渡辺さんのアレンジによる
日本フィルのオーケストラサウンドと、
顕子さんの歌とピアノが一体となり、
「ひとつだけ」、「へびの泣く夜」など5曲が
演奏された。
今年は、ピアノ弾き語り、
ニューヨークのジャズプレーヤー達とのトリオ、
そして今回のオーケストラとの共演、と、
様々なスタイルによる顕子さんの演奏を
聴くチャンスに恵まれた。
それぞれ弾き方が変化するので、
とても興味深い。
今回、オーケストラのアレンジをするため、
渡辺さんは顕子さんに、
コードネームを知らせてほしい、と頼んだそうだ。
ところが、顕子さんが知らせたものを、
渡辺さんは間違っていると思った。
というのは、渡辺さんは参考として、
YouTubeでの顕子さんの演奏を聴いたのだが、
その演奏で使われているコードと、
顕子さんが知らせてきたコードが違ったからだ。
実は顕子さんは、ひとつのメロディーに対して、
即興的に様々なコードをつける。
だからステージで弾くたびに、
同じ曲でも、表情が変化する。
それが、顕子さんの演奏の魅力なのだが、
オーケストラと調和させるため、
今回は、あらかじめコードを決めたそうだ。
私が音楽の仕事をする時は、
CM、展示会などで流す曲を、
CDなどの、サウンドとして完成された形で納品する。
あらゆる可能性の中から、
ただひとつの形を選ぶことになる。
だから、普段から「もっといい音」を探し、
見つけると、前のものを消して、修正することになる。
楽譜もレコーディングのその時まで、
(レコーディングの最中でさえ)、
書き直し続ける。
前のものより、もっといいコードが見つかると、
嬉しくなる。
顕子さんの変幻自在の即興演奏とは正反対だが、
音楽を作るということへのアプローチには、
いろいろな方法や形があるということか。