オペラ「ばらの騎士」 (R.シュトラウス作曲)

ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で上演された
オペラの映像が観られる、METライブ・ビューイング
ミュンヘン生まれのドイツ人作曲家、
リヒャルト・シュトラウス(1864〜1949)による
ばらの騎士」を観た。
この作品は1909年〜1910年、
今からちょうど100年前、
シュトラウス40代の半ば頃に作曲された。
1911年にドレスデンで初演され、大成功。
ベルリン発、ドレスデン行きの特別列車が、
運行されたほどである。
リヒャルト・シュトラウスの生きた
19世紀半ばから20世紀半ばは、
ドイツ大激動の時代だった。
1930年代のナチスの時代、ユダヤ人を擁護したため、
シュトラウスは音楽局総裁の職を追われ、
作品の上演が1年間禁止された。
そのような中にあって、「ばらの騎士」だけは、
例外として上演が認められたという。
ばらの騎士」の舞台は18世紀半ば頃、
女帝マリア・テレジア時代のウィーン。
ホフマンスタールの台本によるこのオペラからは、
当時のウィーンの貴族社会の様子が、よく伝わってくる。
それもそのはず、ホフマンスタールの友人、
ケスラー伯爵が手に入れた、
女帝マリア・テレジア侍従長
ケーフェンヒュラー=メッチュ公爵の日記が
参考にされたからだ。
日記は1742年から49年のもので、当時の貴族の慣習や生活が
詳しく書かれていたという。
今回の「ばらの騎士」は、
ナサニエル・メリルの伝統的な演出によるもので、
1969年にメトロポリタン歌劇場で、初披露された。
残念ながら、メリルは2008年に亡くなったが、
シュトラウスホフマンスタールが描いた世界を、
作曲後100年たった今も、こうして観ることができる。
マリー・テレーズ元帥夫人をルネ・フレミング
青年貴族オクタヴィアンをスーザン・グラハムが演じた。
このコンビは、2002年の来日公演でも
同じ配役だったそうで、息もぴったりだ。
ルネ・フレミングは、孤独を毅然として受け入れようとする
元帥夫人を、豊かな表現力で優雅に演じた。
愛とは何か、このオペラでは考えさせられる。
相手を思いやり、見返りを求めないことか。
マリー・テレーズは、愛するオクタヴィアンが
若い娘ゾフィーに心を移したことを受け入れ、
むしろ二人を応援して、立ち去る。
マリー・テレーズは少女時代、
修道院を出た後、すぐに結婚させられ、
夫との間に深い愛情はない。
身分は高いが、親しい友もいない。
オクタヴィアンを手放して、
再び孤独な生活に戻るのだが、
その姿は最後まで気高い。
その心の在り様は、三者の三重唱の清らかさに
象徴されていると思う。
このような愛を心に秘める女性は、
内面から輝きを放つようになるのだろう。