吉田たかよしさん著 「やさしかった彼女をなぜ鬼嫁に感じるか」

タイトルをひと目見て、思わず苦笑いしてしまったが、
読んでみると、日々の生活に役立つ内容が、盛りだくさんだった。
なぜダイエットや勉強が、長続きしないのか、
なぜ高価な品物を、買わされてしまうのか、
なぜ信じていた人に、財産を巻き上げられてしまうのか。
NHKアナウンサーであり、医師であり、
他にも盛りだくさんな経歴を持つ吉田たかよしさんは、
ご自身の失敗談もネタにしながら、
私たちはなぜ不合理な認識や判断、
行動をしてしまうのかを解き明かし、
それを防ぐための手立てを紹介する。
例えば、なぜ詐欺師の言動に不審な点があると気づいていたのに、
だまされてしまうのか。
病気の時に看病してくれたので「信頼できる」、という記憶と、
言動に不審な点があるので「信頼できない」、という記憶は、
相矛盾するので、心の中で同居できない。
だから、片方の「信頼できない」という記憶を、
無意識のうちに、封印してしまうのだそうだ。
これは、アメリカの心理学者フェスティンガーによって提唱された、
「認知的不協和」と呼ばれる現象である。
ほほえんでもらっただけで、彼女が優しいと思ってしまった・・・。
本書のタイトルにもあるように、
「彼女は優しい」という記憶に反する記憶は、心の中で同居できないため、
結婚して現実に直面した時、彼女が鬼嫁に変身したように感じるのだ。
「認知的不協和」によって、判断を誤らないよう、
人生の重要な局面では、
あるひとつのできごとで、その人全体を捉えるのではなく、
逆の印象のエピソードがないか、検討することが大切だという。
他にも、本書では、ストレスを軽くし、認知のゆがみを正す方法などが、
いろいろと詳しく紹介されている。
とても興味深いのは、「価値観をデザインする」、
「価値を実感すると行動は習慣化できる」、
「心の中に規範を作る」という著者の提案である。
不合理な認識や判断、行動をしないようにした上で、
どのように日々過ごし、より良い人生を送るか。
これは私自身だけの問題に留まらない。
例えば、あるチャレンジをしようとする方(私の生徒さんなど)に、
アドバイスを行う時、
そのアドバイスを理解し、実行するように
持っていく必要があるのだが、
当然のことながら、ただ「やりなさい」というだけではダメである。
どうしたらご本人がやる気を出すのか、それが大切だ。
今までしてこなかったことを、してもらったり、
良い習慣を身につけてもらうためには、
まずその方の価値観を変えるところから始める必要のあることが、
本書でよ〜くわかった。
自分が変わるためにも、人を動かすためにも、
本書は有効な処方箋だと思う。