昨年、大震災から3ヵ月後のメトロポリタン歌劇場来日公演で、
主役を演じる歌手たちが、相次いで来日を辞退した中、
日本に駆けつけ、急な代役で『ラ・ボエーム』のミミを歌い、
大きな慰めと励ましをもたらしてくれたバルバラ・フリットリ。
あれから約半年が経ち、再び来日したバルバラは、
ヴェルディ、プッチーニ、デュパルクそれぞれを中心とした
プログラムによる、三夜のリサイタルを行った。
私が聴いたのは、プッチーニが中心のプログラム。
前半はマルトゥッチの歌曲、「追憶の歌」。
7曲で構成される連作歌曲だ。
イタリアの作曲家、指揮者、ピアニストであった
ジュゼッペ・マルトゥッチ(1856〜1909)は、
ボローニャ音楽院院長、ナポリ音楽院院長を歴任し、
また、ヴァーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」の
イタリア初演を行った人物だ。
バルバラは、マルトゥッチの「追憶」に対して、
まだまだ勉強中との様子がうかがわれたが、
このような埋もれた作品に光を当てるチャレンジには、
今後も期待したいと思う。
後半は、バルバラの魅力が存分に発揮され、
とても楽しめる内容だった。
『ジャンニ・スキッキ』より「私のお父さん」、
『マノン・レスコー』より「この柔らかなレースの中で」、
そしてアンコールでは、『トスカ』より「歌に生き愛に生き」。
バルバラは、それぞれの役になりきり、
聴く者みなの心に、強く訴えかけるような歌を聴かせてくれた。
「私のお父さん」では、表情も佇まいも、可愛らしい若い女性のようで、
バルバラのまた新しい一面を発見したような気持ちがした。
最後の「歌に生き愛に生き」では、
歌姫トスカの気高さや悲痛な心情が迫り、
深く心を動かされた。