小岩悦也さん作曲 オペラ「昔の今は今の昔」


 「ドのオクターブ上は
  ドではないかもしれない。


  リアリティをもとめて
  道なき道を行きたい (小岩悦也)」


東京藝術大学を卒業して間もない新進気鋭の作曲家
小岩悦也さん作曲のオペラの初演が、
今年も横浜市開港記念会館講堂で行われた。
国の重要文化財である、レンガ造りの美しい横浜市開港記念会館。
日本大通り駅を出て、この建物が目に入ると、
昨年の楽しい記憶がよみがえり、
期待でワクワクしてきた。


オペラの初演は、今回も、
横浜室内歌劇団・横浜室内合奏団の
定期チャリティーコンサートの後半に行われた。
(コンサートの収益金の一部は、
ボランティアネットワーク21神奈川を通じ、
東日本大震災への義援金として、
被災地に寄付されるとのことだ)。
オペラの台本は、この合奏団を主宰するフルーティスト、
佐藤大祐さんのご子息、慶應義塾大学在学中の現役大学生、
佐藤龍ノ介さんによるものである。
(合奏団には、英国王立音楽院バイオリン科を卒業した
ご令嬢の佐藤英莉香さん。
美男美女のご子息、ご令嬢である!)
男性声楽家ふたりに加え、作曲者の小岩さん本人も、
鑑定士役としてオペラに登場。
小岩さんがどんな活躍をしたかは、再演時のお楽しみとして・・・。
ユーモアあふれるオペラで、客席は絶えず笑いに包まれた。


明るくひょうきんなリズムの序曲で、オペラは始まる。
途中、駆け抜けるように軽快に。
序曲を聴くだけで、思わず口元がゆるむ。
幕が開くと、見習い陶芸家の若者が登場。
「やっと、できたぞ〜」
充実した面持ちで、つぼを眺めている。
ところが、やって来た師匠は、ひと目見るなり、
「なんだ、この形は!ひどい。使い物にならない!」と言い、
なんとこわしてしまう。
「そんなに大事なら、ボンドで貼りつけとけ!」
ひどい言葉を投げつけられた見習いが、
ズボンのポケットから出したものは、
特大のボンド。
ちょっと哀しいメロディーで、ゆっくりと歌いだす。
「ぼ〜く〜は〜、見習い陶芸家〜
 毎日、まいに〜ち〜
 おこら〜れ〜て〜
 つらいながらに、仕事つづける
 父の工場を、継ぐために〜
 毎日、毎日、つぼを焼く〜」
ボンドで貼ったつぼを客席に見せて、
「いいと思いませんか? 皆さん? 」
遠い目をして、
「誰か僕を雇ってくれませんか?
 二階の人〜〜〜?!」
自信をなくした見習いは、ついに、
「もう陶芸なんて、やめてしまおうかな・・・」
その時、つぼがまぶしく光り、
「ああ、あああ〜」
よろめき、くるくる回る見習い。
「ここは、どこだ?」
なんと、そこは“昔”だった・・・。
さあ、見習いの運命は?!
波乱万丈の物語の続きは、このオペラの再演の時まで、
お楽しみに。


「天才、あらわる 
 天才が、あらわれた
 大変な危機だった
 しかしひとりの天才が、
 私の命を救ってくれた
 ああ神よ、ああ神よ〜
 すてきな出会いをありがとう
 こんなすごい男は
 見たことがない
 神様、本当に、あり〜がとう〜」
“昔”では天才だと褒め称えられ、感謝される見習い。
時と場所が変われば、希望が見出せる・・・。
私たち聴衆にとっても、明日への希望が湧いてくる、
元気の出る楽しいオペラだった。
(再演を期待しましょう! )


なお、今回の公演では、小岩さんの以下の作品も演奏された。
しっとりとした、豊かな情感に溢れる「ジヴェルニーの庭園」、
哀しく切ない、そして優しさと柔らかさも合わせ持つ「式の雪化粧」、
そして、小岩さん少年時代の作品「ぱにぱにダッシュ!」。
(ぱたぱたでなく、ぱにぱにであることに注目。
途中のタカタカ・・・という、速いちょっと風変わりな音の連続が、
何と、ぱにぱにぱにぱにぱにぱにぱにぱに・・・と聞こえる)。
「ぱにぱにダッシュ!」が、いちばん人気だったということで、
アンコールで、もう一度演奏された。
さらなる再演をお楽しみに!