「引き出しを多く」

「課長 島耕作」シリーズを始めとして、
数々の大ヒットを生み出している漫画家の弘兼憲史さんが、
若い頃、小説を書いていたと知り、
一瞬驚いたが、すぐになるほどと思った。
社長になった島耕作と共に、年齢を重ねている弘兼さんだが、
若い頃のエピソードが満載の著書、
「気にするな」が面白い。


この本のタイトル「気にするな」が、文中に出てくる。
第2章「人生に無駄な寄り道はない」の中の「嫌な上司の対処法」、
その終わりの部分をご紹介しよう。


 最近は「パワハラ」に苦しめられているという人が
 多いようです。(中略)
 世の中全体がギスギスしている感じもします。
 でも、そういう人への答えは
 結局のところ一つしかありません。
 「気にするな」です。


この部分が気に入って購入したのだが、面白い本だ。
クリエイティヴであるとはどういうことか、
考えさせられる。


第3章「すぐに成功しなくていい」の中の「引き出しを多く」。


 社会人経験とは別の要素として、漫画を描く上で蓄えになったことは
 いくつか挙げられます。
 若いうちに小説を読んだり書いたりしたことも、その一つです。
 見逃されがちなのですが、漫画を描く上で
 日本語能力というのはとても重要な要素です。(中略)
 世の中の仕事の多くは、単体で成り立っているのではなく、
 さまざまな要素が含まれていると思います。
 その仕事のことだけ詳しくなれば能力が向上するというような
 単純なものではありません。(中略)
 面白い漫画を成立させるためには、
 総合的な能力が必要とされることがわかります。(中略)
 漫画に限らず、何か物を作ろうという若い人は、
 古いものも含めてとにかくいろんな作品を摂取したほうがいい。(中略)
 どんなにロックが好きでも、クラシックも歌謡曲もジャズも
 少しは聴いてみたほうがいい。
 広くアンテナを張って、嫌いなものでも一回かじってみて、
 それでまずければ喰わなければいい。
 でも、まずはかじってみるべきです。


若い人に限らず、どの世代にとっても、
自分が何歳になっても、
「まずはかじってみる」好奇心、チャレンジ精神は大切だ。

山口県に生まれた弘兼さんは、
東京芸大を始めとする都内の美大に行きたかったが、
東京芸大は難しい、多摩美ムサ美は学費が高い、と親が反対。
けれども、とにかく東京に行きたくて早稲田に進学。
これは、弘兼さんの後の人生、漫画で表現してきたものを考えると、
とても良い選択だったと思う。
(芸大に進学していたら、「島耕作」シリーズは、決して誕生しなかっただろう)。

柔軟に考え、様々な選択肢を持つこと自体が、可能性を広げる。

舞い降りるチャンスやご縁、人との、本との、絵との、音楽との、・・・
いろいろなものとの出会いを大切にし、感覚を研ぎ澄ませ、
次なる結晶を、私も作りたい。