川浦みさきさんの個展〜シルクロード紀行〜

「川浦みさき個展〜シルクロード紀行〜」が、
銀座の文藝春秋画廊 ザ・セラーで行われている。
会場には水墨画がずらり。
中国、チベット、ネパール、パキスタン、インド、
イラン、トルコ、カンボジア、バリ・・・。
様々な国や地域の風景や人物が、
黒と白で描かれる。
墨を用いて描いた黒と白の世界であるが、
作品それぞれ、異国の空気をまとっている。
「踊るアプサラ」、「舞姫」は、特に印象的だ。
「踊るアプサラ」は、
カンボジアのアンコール遺跡群で描かれた。
絵の前に立つと、画面いっぱいに描かれた
巨大な樹根が、目に飛び込む。
力強い筆致、はっきりした明暗、
今にも動き出しそうな、節くれ立った根。
右の方に小さく、踊っている女性が二人。
からまる根のすき間にいるのだろうか?
舞姫」は、バリのウブドゥでの作品。
冠をかぶり、ふわりとした衣装に
身を包んだ女性が、
からだをくねらせるようにして
踊っている。
しなやかな手足の動きと、
きりっとひきしまった目もと、口もとが、
対照的だ。
会場を後にしようとした時、
呼び止められた。
川浦さんにお目にかかるのは
初めてだったが、
にこにことお茶をすすめてくださるので、
お言葉に甘えることにした。
興味深いお話を、
いろいろ聞かせてくださった。
川浦さんは、はじめは油絵を描いており、
油彩でアジアの景色を表現したいと
思っていたそうだ。
ところが1981年、中国に留学した折に、
水墨画に出会い、ショックを受ける。
油画から水墨画に転向し、
もうすぐ30年になるのだそうだ。
油画では、布に絵具を重ねるが、
水墨画では、紙に墨を浸み込ませる。
触覚がまるで違う、とのことだ。
紙では、和紙や画宣紙を用いる。
画宣紙は中国の紙で、それが日本に伝わり、
和紙となったそうだ。
原料は同じだが、
和紙ではにじみが少なく、
画宣紙では、パーっと広がるように、
早くにじむという。
効果の違いも面白いそうだ。
題材ではなく、どう描くかで、
紙を選ぶ。
レンガのようなガシっとしたものを描く時は、
にじみの少ない紙を、
霧がかかった山々などを描く時は、
にじみの多い紙を選ぶ、というように。
水墨画では、余白を大切にする。
何を描くか、考えることは、
何を描かないかを決めること。
油画のように塗り重ねて修正することはできない。
引き算をした上で、
描くべきところだけに筆をおろす、とのことだ。
淡い彩色が施された水彩画もある。
川浦さんのお話では、
水墨画と同じように、水彩画でも、
余白を大切にしているという。
どれも皆、無駄なものが削ぎ落とされている。
「踊るアプサラ」についても、お話を聞いた。
小さく描かれた女性たちは、
昔作られたレリーフに彫られていたもの。
アプサラとは、当時王朝にいた
踊り子のことだそうだ。
川浦みさきさんは、
広大なアジアを、縦横無尽に歩き、描く。
危険や困難と隣合わせになることも、あるだろう。
ひとりの女性の活動だとは、にわかには信じ難い。
シルクロードを旅する川浦さん。
このような生き方もある。
この展覧会は、3月6日まで。

川浦みさきさんのホームページ