アシュケナージ氏の信念と情熱に触れて

6月2日、新宿の朝日カルチャーセンターで、
NHK交響楽団桂冠指揮者アシュケナージ氏の公開講座
アシュケナージ氏が語る音楽」が行われた。
進行役は、音楽評論家の諸石幸生さん。
アシュケナージ氏は、1937年、スターリン体制下の
ソヴィエト連邦に生まれ、チャイコフスキー国際コンクール
エリザベート王妃国際音楽コンクールで優勝、
ショパン国際ピアノコンクールで準優勝。
世界三大ピアノコンクールにおいて、
このような輝かしい成績を収めた。
ソ連の一般の人々が国外へ出られない時代、
アシュケナージ青年は演奏旅行のため、
西側諸国を回ることができた。
そして、スーツケースいっぱいレコードを買って帰ったという。
(周囲の人たちからは、なぜ服を買わないのかと聞かれたそうだ)
当時ソ連では、チャイコフスキーベートーヴェン
レコードくらいしか売っておらず、
母国の作曲家、ストラヴィンスキーのレコードさえ、
手に入らなかった。
マーラードビュッシーなどは、
デカダンスというレッテルを貼られ、
演奏される機会は少なかった。
氏は1970年から指揮活動に重点を移し、今日に至る。
「私はロシアの出身だが、他国の作曲家である
 ベートーヴェンモーツァルトシベリウス・・・などに、
 あらゆる角度から取り組んでいる。
 狭い道を歩む人もいるが、私は様々な価値を認めたい。
 公平に曲を評価したい。
 作曲家は皆、違う時代に生き、異なる背景の中で、曲を書いた。
 私がすべきことは、曲を正しく理解し、演奏することなのだ」。
情報を得ることも、行動をすることも、
極度に制限された環境で生まれ育ったアシュケナージ氏は、
だからこそ広い視野を持ち、様々なレパートリーを持つに
至ったのではないだろうか。
また、このような考えを持っているからこそ、
日本のオーケストラを指揮し、録音するという活動を、
活発に行うことができるのだろう。

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さて、アシュケナージ氏は、2007年6月、
ベートーヴェン交響曲第1番を収録するため、
NHK交響楽団と共に、神奈川県川崎市にある
洗足学園音楽大学の前田ホールを訪れた。
収録の後、飛び入りという形で、
氏は学生オーケストラを指揮し、指導する。
それがきっかけとなり、3年後の2010年6月、
氏は、洗足学園音楽大学の名誉客員教授に就任した。
一昨日の6月13日、その前田ホールで、
ウラディーミル・アシュケナージ名誉客員教授
就任披露式典・演奏会」が行われた。
アシュケナージ氏の指揮の下、
ショスタコーヴィチ作曲「祝典序曲 作品96」を、
洗足学園ニューフィルハーモニック管弦楽団が演奏。
この管弦楽団は、プロのオーケストラを目指す
若手の優秀なプレーヤーが学内外から集まったものだが、
とても素晴らしい経験となったであろう。
まだ世に出る前の若い日本の学生たちと共に、
音楽への情熱を燃やすアシュケナージ氏に、
心から敬意を表したい。