マルチ・リード・プレイヤー、ネルソン・ランジェルのライヴ

コットンクラブのステージの上。
テナーサックス、アルトサックス、ソプラノサックス、フルートが、
キラキラ輝きながら並んでいる。
テーブルの上にはピッコロ、卵型のカラフルなシェーカー、
三日月の形のタンバリン。
そして、ウインド・ベル。
演奏するのは、全てネルソン・ランジェルだ。
(さらに「目に見えない」楽器もあるはず・・・。
それは、ネルソン得意の「口笛」だ。)
開演前、まだ薄暗いステージで、ずっと準備している人がいる、
と思ったら、ネルソン本人だったのが、何だかほほえましい。
共演は、ドン・グルーシン (ピアノ、キーボード)、
ビジュー・バーポッサ (ベース)、
ウォルフガング、ハフナー (ドラムス)。
1曲目の「One World Spirit」の前、ネルソンは語った。
「この曲は、世界はひとつ、という意味の曲です。
 今、日本は大変な時だけれど、
 世界の人々が日本を心配していることを伝えたい」。
「ヴォネッタ」では、軽やかなフルートを奏でたネルソン。
この曲は、アール・クルーのデビュー・アルバム『アール・クルー(1975)』に
収録されている。
トークによると、「ヴォネッタ」を聴いたのは、
ネルソンが生まれて初めて買ったLPでのことだった。
年月が流れ、アーティストとなったネルソンは、ある時、
「ヴォネッタ」を、アール・クルー本人と共演することに。
その時になって初めて、「ヴォネッタ」の作曲者が
アール・クルーだと知った、とのことだ。
「アール・クルーに拍手を! 」との呼びかけに、
聴衆は温かい拍手で応えた。
アール・クルーとネルソン・ランジェルが共演する「ヴォネッタ」は、
ネルソンのアルバム『Soul TO Souls (2006)』で、楽しむことができる。
アール・クルーのデビュー・アルバムのプロデューサー、デイヴ・グルーシンは、
「ヴォネッタ」で、自らエレクトリック・ピアノを弾いているが、
今回のライヴで、ネルソンと「ヴォネッタ」を演奏したピアニストのドン・グルーシンは、
何と、デイヴ・グルーシンの弟なのだそうだ!
(ドン・グルーシンは、ものすごくピアノのうまい「陽気なおじいちゃん」に見えた。)
いよいよ「SONORA」。
きっと演奏してくれるだろう、と思っていた。
しっとりしたサウンドに乗って、どこまでも広がっていく
ネルソンの口笛。
本当に高い高い、透き通った音。
これを初めて聴く人は、誰でも驚くだろう。
口笛を吹きながら、
誰かに話しかけるような身振りをしている。
その動きは、まるでパントマイムのようだ。
「僕の気持ちを、わかってくれないか? 」
そんな風に見える。
途中、ピッコロも演奏する。
伸びやかな口笛と、鈴のように転がるピッコロとのコントラストが、
絶妙で美しい。
この「SONORA」は、ネルソンのアルバム
『My AMERiCAN SONGbOOk vol.1 (2005)』で、味わうことができる。
終演後、客席に訪れたネルソンの言葉が印象的だった。
「日本は、今一番大変な時だ。
 海外アーティストの公演がキャンセルされていることを知っているが、
 こういう時だからこそ、僕は日本に行くべきだと思った」。