「パウル・クレー おわらないアトリエ」展

東京国立近代美術館で、「パウル・クレー おわらないアトリエ」展が
行われている。
カラフルな図形、リズミカルな線・・・、
楽しい音が聴こえてきそうな作品たちに会いに行こうと
気軽な気持ちで美術館に入ったら、
想像を超えて見応えのある展覧会だった。
この展覧会が意図するのは、
”「クレーの作品は物理的にどのように作られたのか」という点に
さまざまな角度から迫り”、
”具体的な「技法」と、その技法が探求される場である「アトリエ」に焦点を絞り、
クレーの芸術の創造的な制作過程を明らかにしようとする”ことである。
実際、本当にクレーのアトリエに潜入し、
後ろから制作の様子を目の当たりにするような気持ちで、
作品を見ることができた。
クレーの制作方法を、プロセス1からプロセス4までのコーナーに分けて、
紹介している。
 |プロセス1|写して/塗って/写して||油彩転写の作品
 |プロセス2|切って/回して/貼って||切断・再構成の作品
 |プロセス3|切って/分けて/貼って||切断・分離の作品
 |プロセス4|おもて/うら/おもて||両面の作品
私が特に面白いと思ったのは、プロセス2の「切って/回して/貼って」の
コーナーにある絵だ。
タイトルはかなり長い。
”「ハルピア・ハルピアーナ」、テノール
 ソプラノビンボー(ユニゾン)のため、変ト長調で”。
ペン、紙、厚紙を使った1938年の作品だ。
これは、上に並べられた2つの絵と、下の楽譜で構成されている。
左側の絵では、踊っている人のおなかの部分が楽器のように見える。
右側の絵では、ハープのような楽器と
ギターのような楽器が組み合わされている。
この不思議な楽器たちを眺めるだけでも、
想像力が刺激されて楽しいのだが、
実は、1枚の絵を切り、左右を逆にして貼り付けた作品だというのだ。
切る前では、おなかが楽器になった人物が中央に配置され、
まるで指揮者のように見える。
楽譜には、メロディーと歌詞が書かれている。
「おお、ハルピア! 」と呼びかける、
ワルツのようなリズムを持つ曲だ。
クレーが作曲したのだろうか?
私が興味深いと思ったのは、この曲が変ト長調、つまり、
フラットが6つもある調(キー)によって書かれていることだ。
ドレミファソラシという7つの音のほとんどすべてに、
フラットがついている。
シャープやフラットがつかないハ長調(C Major)に比べ、
楽譜としては読みづらい。
けれども、フラットやシャープのつけ方によって、
音や音楽の色合いというものが、変わってくる。
フラットがたくさんつくと、音楽の色合いに深みが出る、
と私は思っている。
逆に、シャープがたくさんつくと、輝きが増す。
(もちろん音楽上のことなので、色合いとは言っても、
目には見えない。)
クレーは、わざわざフラット6つの調を用いた。
シャープやフラットが、どのように音の色合いを変化させるか掴んでいて、
絵画で、そのイメージをも伝えようとしたのだろうか?
さらに、作品中の手書きのタイトルでは、
クレー自身の手によって、最初は「in aes」と書かれてあったのが、
それを打ち消すかのように、上から大きく「g」と書かれている。
「g」と「aes」のesが組み合わされ、「ges」のようにも見えるが、
これはドイツ語で変ト音(ソのフラット)、変ト長調を表そうとしているのだろう。
しかし、なぜ、このように文字を重ねるのか・・・?
クレーさんに、直接たずねたい。