山中伸弥さん、益川敏英さん著 「大発見」の思考法

再生医学への応用が期待されるiPS細胞の生みの親である山中伸弥さん、
2008年に「CP対称性の破れ」の起源の発見により、
ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英さん。
本書には、お二人の対談が収められているが、
生命科学理論物理学のことなどまるでわからない私にも、
とても面白い、読んでいてわくわくするような本だった。
iPS細胞やCP対称性の破れについても、
一般の読者向けの解りやすい話がされているが、
お二人の人生の歩みが、とても興味深い。
特に山中さんは研修医時代、「邪魔中(じゃまなか)」と呼ばれ、
点滴注射の手伝いばかりで無力感に襲われ、薬理学を学ぼうと方向転換し、
その後、留学先を自分で探すため、3、40通の売り込みの手紙を出したものの、
グラッドストーン研究所以外からは良い返事が来ず、
帰国後もいくつか公募を受けたが全てだめで、
半ば諦め気分で受けた奈良先端大に採用されたものの、
それは30代後半にして、無名で研究費も少ない弱小ラボからの出発だったという。
山中さんは帰国後、自信を失い、うつ状態になったというし、
益川さんは、なんと二十歳の頃から、うつと付き合っているという。
「たしかに、うつになると朝起きるのがつらくなるね。(中略)
 うつが怖いのは症状が強くなると、
 『生きていてもしょうがない』とか、『自殺したい』とか、
 そういう種類のことを考えてしまうことです。」
いつも笑顔で、マスコミにも面白いことを言う益川さんから、
こんな言葉が出るとは驚きだ。
もともと科学の世界は、予想通りに結果が出ない、厳しい世界のようだ。
山中さんは次のように述べている。
「野球では打率三割は大打者だけど、
 研究では仮説の一割が的中すればたいしたもんや。
 二割打者なら、すごい研究者。
 三割打者だったら、逆に、ちょっとおかしいんちゃうかなと
 心配になってくる。
 『実験データをごまかしてないか?』と言いたくなるくらいや」。
次は益川さんの言葉だ。
「実験の結果が予想通りだったら、
 それは基本的に『並』の結果なんです。
 自分が予想していないことが起こったほうが、
 科学者としては当然、面白い。
 そこで大事なのは、『この予想外の結果は、いったい何なのだろう』と
 考えることです。
 そこから全てが始まる。
 ガッカリ落ち込んでいたらそこでおしまい。
 何も生まれない」。
チャレンジ精神の大切さを、私も知っているつもりであるが、
お二人の並外れた精神力に、もっともっと学ばねば、と思う。
「できなかったこと自体は間違いではない。
 『できない』ということがわかったなら、
 それは一つの成功例だと考えるわけです」。
このような益川さん流の考え方を身につければ、先へ先へと進めそうだ。
最後に、もう一つ、益川さんの言葉。
 「やはり、自分の持っている最大の関心事を、
 とことん追究する姿勢だと思います。
 途中で妥協しない。
 ただし(中略)着実なところから手をつける。(中略)
 『この目標は間違っている』と思ったら、
 そこで変えればいい」。