地下鉄の駅を出ると、思いがけず夕闇が広がっていた。
日が短くなった。
10月半ばなのに半袖を着て、暑い暑いと思っていたが、
秋は、少しずつ深まっていたのだろう。
いつもの駅の隣の駅で降りた上、あたりは暗く、
しかも私はひどい方向音痴なので、ちょっと不安がよぎったが、
それでも歩き出した。
やがて、いつもの街並みが見えてきた。
逆方向から来たので、街の表情が違って見える。
左に曲がると、ぐっと暗さが増し、
日常から離れた空間が広がってきた。
暗闇のせいか、いつもより大きく果てしなく感じる、
不忍池(しのばずのいけ)。
上野公園の中にある。
改めて気づいたが、私は湖が好きだ。
学生時代、旅先で湖めぐりをした。
あまり知られていない小さな湖も、好きだ。
東京の街には湖がない。
けれど、身近なところに不忍池があった。
地下鉄に乗ったときは、まだ明るかったので、
カモの写真を撮ろうと思っていたが、
暗い中、見えるのは、大きなはすの葉ばかり。
大きな葉が茂っていて、湖面も見えない。
が、確かにそこに水はあり、
見上げれば、夜空が広がっている。
精神科医の名越康文さんの言葉を、メモしたことがある。
「心のバランスを取るため、自分ひとりで過ごす時間を作ろう、
社会の外に出て、土と木のあるところを散歩しよう」。
が、東京にも、小さいが、水もある。
土と木と水のあるところを散歩して、
新しい自分に生まれ変わろう。
最近教えてもらったが、
不忍池を渡って本郷に出ると、三四郎池がある。
ここには、秘境の湖のようなたたずまいがある。
なかなか素敵だ。
今、湖に映る月の曲を作っている。
明日が、レコーディングだ。