ジャズ・ピアニストの山下洋輔さんと、
脳科学者の茂木健一郎さんの対談が行われた。
「言ってくださいよ、もっと。
音楽は自由なんだ、って!」と、
身を乗り出す茂木さん。
「だって当たり前のことだから。
やりたいことをやるのが音楽でしょ」と
笑う山下さん。
山下さんによると、ネコを鍵盤に乗せても、それは音楽。
間違った、などということはない。
受け取る側が音楽を作る、とのこと。
学生時代、「ピアノを凄く弾けるヤツ」から、
山下さんは楽譜を取り上げた。
するとその友人は、ピタッと止まってしまい、
弾けなくなった。
そこで山下さんが即興でバーッと弾くと、
「なんでおまえは楽譜がないのに弾けるんだ?」と
びっくりされたそうだ。
山下さんの母は、ピアノ教師。
けれでも山下さんは、楽譜を読んで弾くことを拒み、
幼い頃から、いたずら弾きばかりしてきた。
「それを今でも続けているわけですよ」。
山下さんと茂木さんのセッション・タイム。
打ち合わせなしで、いきなり始める。
山下さんがピアノで、茂木さんはボンゴ。
茂木さんの気分の高揚や沈静、
テンポの揺れをとらえ、
山下さんはすかさず、音の連なりや、音の塊で応答する。
リズミカル・・・とは言い難いものの、
踊るように全身を動かしながら、
茂木さんは、ボンゴを打ち鳴らす。
最後は、息もぴったりと収束。
山下さん 「今のは、何が起きたんですか?!
脳科学的に」
茂木さん 「死ぬかと思った!
手がこんなに・・・。痛い!
これを毎日やったら、おなか減るな〜」
山下さん 「これを毎日やるのが、
パーカッションのプロですよ。」
茂木さん 「サインを求められた時、
毎回違うものを描くけれど、
とても疲れる。
即興で何かやるって、
ものすごく疲れることなんだ。」
山下さんのような人でも、初めてのことをするのはこわい。
息子さんが幼い頃、明日の演奏は大失敗かと不安になり、
「カムチャッカ半島に逃げるぞ!」と言った。
かわいそうに息子さんはそれを信じ、
覚悟を決めた、というのだ。
けれでも山下さんは「こわいけれど、やっちゃう」、
得意なことをやらせてもらえればうまくいく、と、
楽観的に考える。
異文化と衝突する時の、こわさとスリル、
そしてうまくいった時の喜び、
それをいつも求めているのだという。
「人生、一回きりの即興演奏だから」。
68歳とは思えない、パワー溢れる山下さんだった。