林 成之さん著 <勝負脳>の鍛え方

金メダリストの北島康介選手を筆頭とする、
北京オリンピックの競泳日本代表チームに、
“「勝つための脳」=勝負脳の奥義”を伝授した、
脳神経外科医の林成之さん。
テレビ番組で紹介されていたが、
オリンピック直前の強化合宿で、
北島選手たちに講義した内容は、
今でも強烈な印象として残っている。
並みはずれた能力や技術を持ちながら、
ゴール直前で失速していた北島選手たちに対し、
林さんは言った。
「もうすぐゴールだと思うと、
 脳は、もう達成した、がんばらなくていい、
 と誤って判断してしまう。
 ゴールとは、脳の中では否定語。
 最高の運動能力がそこで消え、
 普通の選手になってしまう」。
もうすぐゴール、と思うことで、
がんばる気力を保とうとしていた私は、
この説を知って、とても驚いた。
書店で手に取ると、本の帯には、
北島選手がガッツポーズをしている、勝利の瞬間の写真。
読んでみると、自分の中の常識が塗り替えられるようで面白く、
今では、受験生や若い演奏家の人たちにも勧めている。
林さんは、「ものを覚える、運動がうまくなる知能と、
試合に勝つ知能は同じではありません」と述べ、
指導者が単に猛練習をさせたり、怒鳴って叱ったりしても、
効果は上がらず、逆効果にさえなってしまうと指摘する。
また、効率よく点を取る、相手の弱点を攻めて勝つ、
という考えでは限界があり、
自分を一流のレベルに高めることはできないとのことだ。
林さんは、「セオリーだけではなく、人間の脳の働きまで考えて
勝負することが必要」であり、
「思いもよらない戦略で勝つチャンスが、技が劣っている側にも生じ、
このような頭の働かせ方をするのが“勝負脳”なのだ」と述べる。
勝負脳の鍛え方は、9つのテーマに分けて説明されている。
初球をヒットにするイチロー選手を例に挙げた
「最初から百パーセント集中せよ」、
やはり野球を例にした
「勝負の最中にリラックスするな」
の話が面白い。
緊張しすぎる人のために、呼吸法も紹介されていて、
さすがお医者さまの書いた本、至れり尽くせりだ。