「香水瓶の世界」展

「きらめく装いの美 香水瓶の世界」展が、
目黒の東京都庭園美術館で行われている。
木々に囲まれたアール・デコの館、旧朝香宮邸が、
美術館として生まれ変わったのだが、
この贅沢な空間は、今回の展覧会にぴったり。
広々とした館の中を、ゆっくり歩きながら、
古代から現代までの、様々な香水瓶の美しさを味わった。
現代では、香りは楽しむために用いられるが、
紀元前2000年という大昔、
香りは宗教儀式に用いられていたという。
火を焚き、その香りを神に捧げていたそうだ。
14世紀頃、ペストという死の病が流行すると、
香りは魔よけになると考えられた。
香りによって悪霊を払うため、
首に下げるポマンダー(練香入れ)が作られ、
香りは持ち運びできるものとなり、
次第に、香り自体を楽しむ文化ができた。
当時は、香料を手に入れられるのは、
貴族など特権階級だけだった。
展覧会では、18、19世紀の香水を入れる様々な作品が、
紹介されている。
特に、金の繊細な装飾が施された
「卵型香水キャビネット(1870年頃、フランス)」は、
美しいのはもちろん、このようなものを考案した
職人さん(?)の発想が面白い。
卵型のキャビネットがぱっくりと、
まるで二枚貝かのように開き、
卵の中から香水瓶が4本現れる。
これを所有していた貴婦人が、
わくわくしながら卵を割り(開き)、
「今日は、どれにしようかしら」と
香水を選ぶ様が、思い浮かぶようだ。
また、「ポーシャ(1760年頃、イギリス)」は、
人形の形をした磁器製の香水瓶。
シェークスピア作「ヴェニスの商人」で、
夫の命を救うために、法学者に変装した賢い妻、
ポーシャがモデルだ。
黒い帽子を被り、黒い衣をまとったポーシャは、
愛らしく魅力的に作られている。
この可愛いらしい人形の中に、
香水を入れるという発想も、驚きだ。
小さな作品それぞれの中に、名も無い職人たちの
卓越した技やアイデアが凝縮されている。
ゆったりと見て周り、館を出ると、
もう夕暮れだった。
鳥や、虫の音が、
とても涼しげだった。