第53回グラミー賞で最優秀新人賞を受賞! エスペランサのライヴ

つい先日の2月14日(日本時間)、第53回グラミー賞
最優秀新人賞を受賞したエスペランサ・スポルディングが、
その2日後の2月16日から4日間、ブルーノート東京のステージに登場した。
「この人って良さそうだと思わない? 」と言われ、彼女の存在を知った私は、
直ちに聴きに行くことを決めたので、本当にラッキーだった。
会場は超満員。
やはりグラミー賞受賞のニュースの後、あっという間に、
チケットの予約がいっぱいになったそうだ。
エスペランサは女性ベーシストであり、ヴォーカリスト
開演前のステージ上手には、ソファやテーブルがしつらえてある。
赤ワインのボトルやグラス、炎が揺れるキャンドル、
花瓶にさした真紅のバラ。
これから、どんなステージが始まるのだろう。
今回のライヴは、エスペランサの3作目のアルバム、
"Chamber Music Society"の世界を表現するという。
ソファやバラは、エスペランサのお気に入りの部屋、
プライベートな世界をイメージさせる。
ライヴの出演者は以下の通り。

 エスペランサ・スポルディング(ベース、ヴォーカル)
 レオ・ジェノベーゼ(ピアノ)
 テリ・リン・キャリントン(ドラムス)
 サラ・キャスウェル(ヴァイオリン)
 ロイス・マーティン(ヴィオラ
 ジョディ・レッドヘイジ(チェロ)
 リーラ・サイル(バック・ヴォーカル)

ピアノのレオ・ジェノベーゼ以外は、ベースのエスペランサはもちろんのこと、
ドラムスのテリ・リン・キャリントンに至るまで、すべて女性のようだ。
女性がずらりと並び、また、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが演奏されるのは、
ブルーノート東京では、めったに見られない光景なのではないか。
さて、エスペランサを除いたメンバーが、ステージで前衛的な音楽を奏で始める。
エスペランサのものであろう、アコースティックのベース(コントラバス)は、
ステージ中央辺りに置かれたままだ。
不思議な音楽が流れる中、いよいよエスペランサが登場。
コートを脱ぎ、ソファに腰掛け、ゆったりと赤ワインをグラスに注ぐ。
まるで演劇を観るかのように、聴衆が固唾を呑んで見守る中、
彼女はソファから立ち上がり、ベースを爪弾き(つまびき)ながら歌い始めた。
自身が作曲した‘LITTLE FLY’。
エスペランサが若いこともあるが、透き通っていて可愛らしい声だ。
ボサノバで有名なアントニオ・カルロス・ジョビンの曲、
‘INUTIL PAISAGEM’では、声をパーカッションのように使っていて、とても面白い。
彼女はベースを鮮やかに弾きながら、自在に声を操る。
とっても低いベースの音と、とっても高い声の、軽やかな動きは、
2枚の落ち葉がくるくると、風で舞い上がるかのようだ。
また、レオの弾くピアノの速いパッセージに合わせ、
超絶技巧を駆使してユニゾンで歌うのには、とても驚かされる。
エスペランサ作曲の‘WINTER SUN’。
一度聴いたら忘れられない、独特の雰囲気を持った曲だ。
ベーシストとして、ヴォーカリストとして、作曲家として、
若い彼女はこれから、新しい個性的な音楽を聴かせ続けてくれるだろう。
今回の、ミュージシャンとしてだけでなく、役者のようにステージで演じ、
コンサート全体で大きなストーリーを紡いでいく手法も、画期的だ。
演奏の合間のメンバー紹介やトークは一切なく、
エスペランサの構築する世界が、時間の流れに乗って、
次々に展開されていく。
いつしか、ヴァイオリンなどの奏でる前衛的なサウンドがよみがえり、
エスペランサは楽器を置いて、ソファの方へ。
コートを着て、テーブルのライトを消し、
ステージを降りて去って行った・・・。