1942年にイタリアのミラノに生まれ、
1960年のショパン国際コンクールで優勝し、それ以来、
日本でも常に最高の人気を誇るポリーニ。
「音楽の友」誌で5年に1度行われる読者アンケートでは、
すべての回で、「人気ピアニストベスト3」に入っている。
アンケートの始まった1981年から、2006年までの、
実に25年間を通じての結果だ。
今回の来日公演では、3つのプログラムが用意された。
ベートーヴェンの最後の3曲のソナタ、というプログラム。
J.S.バッハの「平均律クラヴィーア曲集」第1巻全曲、
というプログラム。
そして、ショパンの「24の前奏曲」全曲と、
ドビュッシーの「練習曲集」第2集と、
20世紀の音楽家ブーレーズの「ピアノ・ソナタ第2番」、
というプログラム。
プログラムを見るだけで、とてつもないパワーが
みなぎっていることが伺える。
70歳にも差し掛かろうとするポリーニの、
何と強靭な精神であろう。
私が聴いたのは、ショパン、ドビュッシー、ブーレーズ。
アンコールとして、さらに4曲演奏され、終演は10時近く。
3時間にも及ぶ、しかも非常に密度の高い、
濃縮されたような時空間を体験した。
ポリーニ自身の希望で、空調の運転は弱められ、
客席は真っ暗。
ステージの上のピアノに、スポットライトが当てられ、
ピアノを弾くポリーニが、暗闇の中から浮かび上がる。
客席は静まり返り、聴衆も演奏に集中している様が、
肌で感じられる。
ブーレーズの演奏では、息つく間もないほど、
途切れることなく超絶技巧が駆使され続けられるが、
その細かな音のひとつひとつが、クリアで研ぎ澄まされ、
驚くべき内容だった。
現代音楽がこれほど美しいとは、と、
目の覚める思いをした人も、多かったのではないか。
ショパン、ドビュッシーでは、
これ以上ないと思われるほどのピアニシモで、
柔らかく響き合う音が、何ともデリケートで美しい。
円熟という表現が、とてもふさわしく感じられた。
アンコール最後に演奏された、ショパンの「バラード第1番」では、
青年時代のショパンの哀しみ、憧れ、情熱が、心に迫る。
この壮大なリサイタルの締めくくりにふさわしい演奏だった。