マウリツィオ・ポリーニ ピアノ・リサイタル JAPAN 2010

1942年にイタリアのミラノに生まれ、
1960年のショパン国際コンクールで優勝し、それ以来、
日本でも常に最高の人気を誇るポリーニ
「音楽の友」誌で5年に1度行われる読者アンケートでは、
すべての回で、「人気ピアニストベスト3」に入っている。
アンケートの始まった1981年から、2006年までの、
実に25年間を通じての結果だ。
今回の来日公演では、3つのプログラムが用意された。
ベートーヴェンの最後の3曲のソナタ、というプログラム。
J.S.バッハの「平均律クラヴィーア曲集」第1巻全曲、
というプログラム。
そして、ショパンの「24の前奏曲」全曲と、
ドビュッシーの「練習曲集」第2集と、
20世紀の音楽家ブーレーズの「ピアノ・ソナタ第2番」、
というプログラム。
プログラムを見るだけで、とてつもないパワーが
みなぎっていることが伺える。
70歳にも差し掛かろうとするポリーニの、
何と強靭な精神であろう。
私が聴いたのは、ショパンドビュッシーブーレーズ
アンコールとして、さらに4曲演奏され、終演は10時近く。
3時間にも及ぶ、しかも非常に密度の高い、
濃縮されたような時空間を体験した。
ポリーニ自身の希望で、空調の運転は弱められ、
客席は真っ暗。
ステージの上のピアノに、スポットライトが当てられ、
ピアノを弾くポリーニが、暗闇の中から浮かび上がる。
客席は静まり返り、聴衆も演奏に集中している様が、
肌で感じられる。
ブーレーズの演奏では、息つく間もないほど、
途切れることなく超絶技巧が駆使され続けられるが、
その細かな音のひとつひとつが、クリアで研ぎ澄まされ、
驚くべき内容だった。
現代音楽がこれほど美しいとは、と、
目の覚める思いをした人も、多かったのではないか。
ショパンドビュッシーでは、
これ以上ないと思われるほどのピアニシモで、
柔らかく響き合う音が、何ともデリケートで美しい。
円熟という表現が、とてもふさわしく感じられた。
アンコール最後に演奏された、ショパンの「バラード第1番」では、
青年時代のショパンの哀しみ、憧れ、情熱が、心に迫る。
この壮大なリサイタルの締めくくりにふさわしい演奏だった。