「荒削り」の輝かしさ

横山幸雄さんのオール・リスト・プログラムによるリサイタルが、
東京オペラシティ コンサートホールで行われた。
難曲で有名な「ラ・カンパネッラ」(パガニーニによる大練習曲集より)が、
第1部の真ん中あたりに、さりげなく入っている。
13時開演で、第1、2、3部と進み、最後の曲であるソナタを弾ききった横山さんは、
熱烈な拍手により、何度もステージに呼び戻されたが、
アンコールをせず、マイク片手に再登場。
「アンコールは夜の部で」と茶目っ気たっぷりにアナウンスをした。
そして16時半開始の部(追加公演)では、まさに超人的なスタミナで、
超絶技巧練習曲集全12曲と、ハンガリー狂詩曲第2番を披露。
リストを一度に、こんなにたくさん聴いたことは、私はかつてなかった。
怒涛のような激しい音の洪水を、たっぷりと堪能。
ところが、今回はマイクが1本もない。
記録用にさえも、録音しなかったのだろうか。
横山さんにとって、今回の演奏は、まだまだ発展途上のものと
いうことなのだろうか。
確かに、ショパンを弾いている時の横山さんとは違う。
横山さんは自分の作品よりも、ショパンの方が、
より自分のものであるように感じるそうだ。
特に、1日中、ショパン全曲を暗譜で次々と弾き続けている時など、
まるでショパンが乗り移ったかのような感じさえしてくるほどだ。
それに比べると、今回のリストは「荒削り」である。
が、何と輝かしいことだろう。
ダイヤの大きな原石、塊のような原石かのごとく。
どんな風に磨かれ、どんなダイヤに形作られていくのか、
見当もつかない。
5年、10年、と、聴き続けていくほかない。