横山幸雄さんが、「ショパン・ピアノソロ完全奏破全212曲
世界記録更新チャレンジコンサート」を、見事やり遂げた。
2011年5月3日の朝8:00開演、深夜2:00終演、その間、なんと18時間!
横山さんは、東京オペラシティ・コンサートホールのステージで、
たったひとり、1曲1曲弾き進めていく。
最初の曲は「ポロネーズト短調 WN2」。
ショパン7歳頃の作品で、横山さん自らが執筆したプログラムの曲目解説では、
次のように紹介されている。
「すでにこの頃ショパンがピアノの演奏技術においても
秀でていたことが窺えます。
しかしまだ自分で楽譜を書くことが出来ず、
先生であったジヴヌィが書きとったと云われています」。
ショパンの幼少時代、少年時代の曲が、20曲以上続く。
「ノクターン第1番」や、「12の練習曲集 Op.10」、
「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」は、
若き時代のショパン(20歳前後)の代表作であるが、
これらが書かれる以前の、非常にたくさんの曲が演奏された。
故国ポーランドで、家族と暮らしていた頃の、
少年ショパンの面影が、くっきりと立ち上ってくる。
朝、昼、晩と時間が流れ、深夜になると、
39歳で亡くなったショパンの、晩年の作品ばかりとなってくる。
死の床で書かれ、スケッチの形のままでしか残されていない、
「マズルカ ヘ短調 WN65 (Op.68-4)」の、
なんという、沈むような悲しさ。
血を吐き、迫り来る死をありありと意識しながらも、
やっとの思いで音符を書きつける、ショパンの姿が浮かんでくる。
故国ポーランドの舞曲、マズルカ。
なつかしいポーランドの土を、再び踏むことも叶わず、
命のともしびが、消されようとしている。
最後までマズルカを書き、故国に思いを馳せるショパンの心のありようが、
横山さんの指から紡がれていく音楽によって、
私たちに伝わってくる。
このコンサートにより、私たちはショパンの歩みの一歩一歩を、
まさに彼の全ピアノ・ソロ作品を一曲一曲聴くことにより、
辿っていくことができた。
横山さんは、演奏家でありながら、
しかし、まるでショパンになり代わったかのようにも思われた。
暗譜で、全曲を次々に演奏するその様は、
ショパンその人が、ステージにいるかのようであった。
18時間に及ぶコンサートであるにもかかわらず、
横山さんの演奏は、時間の経過と共に、ますます輝きを増し、
最後の1時間など、崇高にさえ感じられた。
「舟歌」、最後のノクターン、最後のポロネーズ・・・。
ピアニシモの美しさ。
柔らかい光を帯びた音の粒が、
真珠のネックレスのように、連なっていく。
ショパンと一緒に、私たちの魂も天に昇りそうだ。
長い長いコンサートの最後は、「幻想ポロネーズ」。
横山さんは、多彩な音色で、鮮やかに弾き切った。
すぐさま、会場内の聴衆は総立ちとなり、
横山さんの世界記録達成を祝った。
ギネス世界記録達成の認定証授与式、
横山さんへのインタビューに続いて、
横山さんを応援した方々がステージに上がり、
お祝いの言葉を述べた。
三枝成彰さん(作曲家)、大友直人さん(指揮者)、辰巳琢郎さん(俳優)、
平野啓一郎さん(作家)、雁屋崎省吾さん(華道家)など、
そうそうたる顔ぶれだ。
辰巳さんのコメントには、会場も和んだ。
「僕はヒマじゃないんですよ。
忙しいんですけれど、いろいろな仕事を断って、
今日は、朝からここへ来ました。
この日のために体を鍛え、スリッパも用意したんです」。
横山さんは、この演奏会をチャリティーコンサートとして行った。
ご自身の出演料全てを、大震災の復興支援のため寄付するという。
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なお、今回の記録は、ギネスワールドレコード社の
「24時間以内にソロ・アーティストが演奏した最大曲数」という記録で、
昨年の166曲という横山さんご自身の記録を、自ら更新したものです。
(今回、遺作など46曲が加えられました。)
昨年の166曲の記録達成の模様については、
当ブログ2010年5月4日、5日の、以下の記事をご覧ください。
・〜ギネス世界記録に挑戦!!〜横山幸雄さんショパン・ピアノソロ全166曲コンサート
・横山幸雄さんショパン・ピアノソロ全166曲コンサート第1部後
・横山幸雄さんショパン・ピアノソロ全166曲コンサート第2部後
・横山幸雄さんショパン・ピアノソロ全166曲コンサート第3部後
・横山幸雄さんギネス世界記録達成!!