神童 コルンゴルト

東京芸術大学楽理科3年生、中村伸子さん企画・解説の
コルンゴルトを広め隊 第二回公演 神童 コルンゴルト
というコンサートが、同大学のホールで行われた。
演奏は、ヴァイオリン専攻の梶川空飛亜(ソフィア)さん、
藤井杏子さんなど、同大学の学生有志。
エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト(1897〜1957)は、
20世紀初めにウィーンで活躍したユダヤ人作曲家。
(1934年に渡米、1943年アメリカに帰化
ハリウッドで映画音楽を作曲するようになり、
「風雲児アドヴァース」と「ロビン・フッドの冒険」で、
アカデミー作曲賞を受賞。)

この「第二回公演」では、10代初めから終わりにかけて書かれた、
少年時代の作品が取り上げられた。

  ピアノ三重奏曲Op.1より第1楽章(1910)
  6つの性格的小品<<ドン・キホーテ>>(1909)
  6つのやさしい歌Op.9(1911-16)
  弦楽六重奏曲Op.10より第4楽章(1916)

コルンゴルトの父は、オーストリアの有名な音楽評論家。
中村伸子さんの解説によると、
息子たちのミドルネームが興味深い。
長男はハンス・ロベルト・コルンゴルト
(ロベルト・シューマンから)
次男はエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト
(もちろんモーツァルトのヴォルフガングから)
そして父本人は、何とユリウス・レオポルド・コルンゴルト
(レオポルドとは、モーツァルトの父!)
コルンゴルトは大変熱心に音楽の勉強に励み、
後期ロマン派の大家たちからも絶賛された。
9歳で作曲したカンタータを見て、マーラーは、
「天才だ!」。
リヒャルト・シュトラウスは、手紙の中で述べた。
「しかし、いますぐこの幼き天才を机や音楽から離し、
 田舎に送り、そり遊びやスキーをさせなさい。
 彼の若き脳が、豊かな生産性に到達する前に
 早くに疲弊して尽きてしまわないように」。
今回演奏された弦楽六重奏曲が初演された1917年当時、
Neue Freie Presseでは、次のように報道された。
「存命の作曲家の中で、リヒャルト・シュトラウスを除いて、
 彼ほど個人的・個性的に書く人はいない」。
この曲が書かれたのは、第1次世界大戦中。
徴兵を免れることができたお陰だ。
音楽好きの医者が、コルンゴルトが徴兵されないよう、
次のように診断したのだ。
「貧弱な体質のため。
 特に太りすぎているため」。
青年作曲家というと、青白くやせて神経質そうな人物、との
イメージを持つ方も多いかと思うが、
中村さんが見せてくれた、太ったコルンゴルトの映像で、
会場は笑いに包まれた。
なお、コルンゴルトの名誉のために付け加えると、
兵隊になる代わりに、歩兵連隊の音楽監督を務め、
指揮や作曲を行ったという。
弦楽六重奏曲を演奏した藤井杏子さんが、
次のようなコメントを寄せてくれた。
「私が演奏しました第4楽章は、明るく軽快で聴きやすい曲です。
 強弱記号がとても細かくて、少しおふざけの雰囲気があるところは、
 ハイドンに似ているかなと思います。
 全体を通してアンサンブルが難しく、
 こんな複雑な曲を書くとは、さすが神童だ、と感心しました。
 けれども、たまに、六重奏にしては音の厚みが物足りないと
 思うところがあります。
 一方、最後に出て来る第1楽章を思わせるメロディックなところでは、
 とても重厚な響きが美しいと感じます。
 いつか全楽章をすべて演奏したいと思います。」

ピアノ三重奏曲(ピアノトリオ)を演奏した梶川空飛亜さんからの
コメントは、以下の通りである。
「合わせをしていて一番戸惑ったのは、
 私達が最初に抱くコルンゴルトのイメージとは
 だいぶ違う曲想、特に和声感です。
 
 調べていくうちにわかってきたことですが、
 後に映画音楽の世界で活躍する彼の曲は
 メロディアスで効果を狙った曲調が印象的ですが、
 そうなるまでには時代と逆行するような
 曲調の変遷があったようです。
 ロマン派の終わり、まわりが調性の崩壊をたどる中、
 コルンゴルトの作品は年を経るごとに
 わりとはっきりと調性が感じられるものになりました。

 そう考えるとOp.1であるピアノトリオが
 イメージと離れているのも少し納得がいきます。

 もうひとつ、トリオの3人で話していたのが、
 コルンゴルトは本当はこの曲を
 オーケストラで書きたかったのではないかということ。
 ピアノトリオにしてはかなり壮大なスケール感を必要とし、
 フレーズを繋ぐのに弦楽器でやるには難しいのではと
 思うような点がいくつかみられました。
 それも当時13歳だったという彼の驚くべき才能と環境を考えると
 面白く思えてもきますが。


 普段聴かれない曲の合わせをしていくのはとても大変でしたが、
 そのような曲をイチから自分たちで考えて作っていくのは
 案外楽しいし、良い経験にもなりました。」

コンサート終了後の打ち上げで、笑顔いっぱいの3人。
左から梶川空飛亜さん、中村伸子さん、藤井杏子さん。
若い研究者、音楽家の方々の、今後ますますの活躍が楽しみだ。<コンサート出演の皆さん>

梶川 空飛亜さん   大澤 久さん    三木 蓉子さん
佐々木 美歌さん   福永 一博さん   高木 祐香さん
藤井 杏子さん    松山 裕香子さん  大角 彩さん
西海 朱音さん    川口 成彦さん

 ♪ ♪ ♪

藤井杏子さん(ヴァイオリン)出演の動画、"Green Garden"と、"Green Road"を
2011年4月19日の記事、「第11回 試聴コーナー」で、どうぞお楽しみください!

また、当ブログ2010年2月19日の記事、
若き音楽家、宇野健太君、中村翔太郎君、藤井杏子さんの座談会!
も、ぜひご覧ください。

 ♪ ♪ ♪

Nobuko Nakamura held a concert that introduced Korngold.
Sophia Kajikawa, Kyoko Fujii and their friends performed.
I wish these young scholars and artists' great success.