映画音楽の巨匠、ミシェル・ルグランの夜

シェルブールの雨傘(1963)」、「おもいでの夏(1971)」など、
数々の映画音楽で知られるミシェル・ルグラン
現在、3度のアカデミー賞と5度のグラミー賞という
並外れた受賞歴を誇っている。
もちろん、ノミネートされた楽曲は、さらにたくさんある。
ちなみに、「シェルブールの雨傘」で組んだジャック・ドゥミ監督とは、
他に"Lady Oscar (ベルサイユのばら実写版)"という作品も・・・。
20代半ばに、マイルス・デイヴィスジョン・コルトレーン
ビル・エヴァンス・・・などという
「伝説のジャズメン」とのレコーディングを行った歴史の生き証人ルグランも、
今年79歳!
ブルーノート東京に現れたミシェル・ルグランは、
背中も丸くなった、気さくな面白いおじいちゃん。
「ルグラン・トリオ」のメンバーは以下の通りだ。
 ミシェル・ルグラン (ピアノ)
 ピエール・バウサエ (ベース)
 フランソワ・レゾー (ドラムス)
ピアノに向かったルグランは、軽くサラサラっと鍵盤に指を走らせ、
こちらが「音合わせ?」と思う間もなく、
「1曲目はおしまい。
 2曲目に行こう」。
その後も、縦横無尽に鍵盤を駆け回っていた手が、
鍵盤が少なすぎて(?)、ピアノの右端から落ちてしまったり、
歌っている最中、どんどん声を低く下げていったのだが、
あまりにも低くなりすぎて(?)、声が出なくなり、せきばらいしたり、
自分の歌声の「こだま」を、自分で歌ってみたり。
ハプニングなのかジョークなのかわからない、いろいろなことが起こる。
若い女性の多い客席は、リラックスした雰囲気で、笑い声も沸く。
ベースのバウサエ、ドラムスのレゾーは、ニヤニヤして
笑いをこらえている様子。
パリ国立高等音楽院で研鑽を積み、
華麗な映画音楽を世に出してきたルグランだが、
ジャズ・ピアノの演奏が、自由自在で軽やかなことには、驚いた。
その上、超速で動く指の動きに合わせて、超速のスキャットを入れることも。
(79歳でこの速さ!)
メロディーは、どんどん転調され、
とどまるところなく流れていく。
ベースのバウサエやドラムスのレゾーも、
あざやかなテクニックで盛り上げていく。
ルグランの思いつきで、どんどん曲が進められているような
自由奔放な演奏で、
事前にどのような打ち合わせがあったのか、
そんなものはほとんどないのか、わからない状態だ。
アンコールでは、いよいよ「シェルブールの雨傘」。
「いつもやっているから、いつもと違うやり方で」、ということで、
ジャズ風のアレンジで弾き始める。
途中からジャズ・ワルツになり、ボサノバになり、まだまだ終わらず、
ニューオリンズ・ジャズ風になり、そして、タンゴ。
最後は「ヘイ!ヘイ!」と叫び、
ジャン!
遊び心いっぱいのステージだった。