矢野顕子 2010「ここが音楽堂!」弾き語りツアー

矢野顕子さんのピアノ弾き語りによるアルバム「音楽堂」が、
2月にリリースされた。
音楽堂とは、神奈川県立音楽堂のこと。
顕子さんにとって理想のアコースティック空間という音楽堂で、
一発録りした15曲が収録されている。
4月半ばからゴールデンウィークにかけて行われるツアーでも、
最終日のコンサートは、この音楽堂で行われる予定だ。
そのチケットは、わずか5分で売り切れたという。
私は東京国際フォーラム ホールCで行われた
コンサートを聴くことができた。
会場に入ると、ステージの上にグランドピアノ。
ところが、ピアノの上に何か大きなものが吊るされ、
宙に浮かんでいる。
顕子さんの説明によると、焼け焦げの跡がある大きな板
(ただし火事場から拾ってきたのではない)、
ゆがんでいて穴のあいた鉄板
(ゴミ捨て場から拾ってきたのではない)、
食堂に置いてあるような椅子
(これもゴミではない)、
実はそれらはアートなのだ。
舞台美術は立花ハジメさん。
コンサートが始まり、場内が暗くなると、
これらのオブジェにライトが当たる。
ライトの色や数、当てる角度によって、
壁や天井に様々なシルエットが浮かび上がり、
思いがけず幻想的な空間が現れた。
顕子さんは、にこやかにずっと観客の方を向いたまま歌い、
ピアノを弾き続ける。
オブジェもグランドピアノもシルエットも、
歌声もピアノのサウンドも何もかも一緒になって、
とっても不思議な世界が広がった。
先頃亡くなった忌野清志郎さんにあてて書かれた
「きよしちゃん」など、新曲も披露された。
顕子さんのピアノはとても自由で、アルバム「音楽堂」の
演奏からも、さらに高く羽ばたいているように感じる。
何度も、ピアノを52年も弾いていると言って笑っていたが、
さすがにピアノが体の一部のようだ。
谷村新司さんが作り、山口百恵さんが歌った「いい日旅立ち」など、
同名の名曲がもうひとつできたという感じで、
すっかり顕子流になっている。
いい日旅立ち〜」というフレーズを何度も繰り返すのだが、
その節回しが独特で、聴いているこちらの口元も、つい緩む。
顕子さんが、ゲストのギタリスト細美武士さんの曲を短いと言い、
細美さんが苦笑した場面があった。
顕子さんは、曲をいくらでも引き伸ばすことができる、
やり方を教えてあげる、と笑っていたが、
誰か止めてくれないと、止まらなくなってしまうという。
確かに、「いい日旅立ち」でも止まらなくなってしまっていたが、
その止まらなさ加減が、CDに収録されていたものより、
さらにパワーアップしているのだ。
ああ、これからどうなっていくのだろう・・・