オペラ「ハムレット」 (トマ作曲)

ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で上演されたオペラが
スクリーンで見られるMETライブビューイングで、
ハムレット」を観た。
メトロポリタン歌劇場で「ハムレット」が上演されるのは、
約100年ぶりのことだという。
イギリスの文豪シェイクスピアの「ハムレット」は、
もちろん英語で書かれたのだが、
作曲者トマはフランス人なので、
オペラ「ハムレット」では、フランス語で歌われる。
主人公ハムレットも、フランス語でアムレと呼ばれる。
ちょっと面白いのは、英語で書かれた「ハムレット」が、
フランス語によるオペラとなったのだが、
今回その主人公ハムレットを演じたのが、
イギリス人のバリトン歌手、サイモン・キーンリーサイドだと
いうことだ。
もちろんキーンリーサイドは、フランス語で歌ったのだが・・・。
作曲者トマ(1811〜1896)は、父からヴァイオリンとピアノを学び、
パリ音楽院に入学して研鑽を積み、ローマ大賞を受賞。
オペラを中心に作曲をし、オペラ・コミック座やオペラ座で、
約20曲のオペラを発表。
60歳頃、パリ音楽院の院長となった。
ハムレット」は1868年に初演された、彼の代表作である。
ちなみに、この年に初演されたのは、
ヴァーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」だ。
ヴェルディの「ドン・カルロ」初演は1867年、
アイーダ」初演は1871年
オペラ「ハムレット」では、原作よりも登場人物を減らし、
ハムレットの母やオフィーリアの父を、より罪深く描く。
そしてハムレットの苦悩や、オフィーリアの絶望が、
より鮮明に表現される。
今回の演出はパトリース・コリエ&モーシュ・ライザー。
暗く冷たくシンプルな舞台で、
ハムレットやオフィーリアの白い衣装が、
ぶどう酒や自らの血で赤く染まっていくところでは、
ぞっとするような美があり、衝撃的だった。
ハムレット役のキーンリーサイドの声は陰影に富み、
追い詰め、また追い詰められる切迫した場面では凄みがあり、
とても引きつけられる。
彼はインタビューで、真実を伝えることを大切にしていると
述べていた。
オフィーリア役のマルリース・ペテルセンは、
病気で出演できなくなったナタリー・デセイの代役だったが、
透き通るような声で、清純なオフィーリアを演じた。
この舞台では、オフィーリアは川で溺れて死ぬのではなく、
部屋で白い花々をまき散らし、ナイフで自分を傷つけて死ぬ。
その狂乱の場で、血を流し、よろめきながら歌い、
倒れ、起き上がり、そして死に至る様は、真に迫っていた。