佐野優子さんのピアノ

東京藝術大学の奏楽堂で行われた学内演奏会に、
音楽学部3年に在学する二十歳のピアニスト、
佐野優子さんが出演した。
優子さんは、少女時代から本格的な演奏活動を行っている
期待のピアニスト。
リサイタルを開く際には、プログラムに載せる曲目解説を、
自分で資料を調べながら執筆。
曲に対し様々な角度からアプローチし、
自らの音楽観を演奏に反映させようとする姿勢が印象的だ。
今回、優子さんが演奏したのは、
シューマン作曲「ダヴィッド同盟舞曲集」。
優子さんによると、
 「今年生誕200年を迎えたシューマン
  初期作を選びました。
  後に妻となるクララとの結婚式前夜に開かれる
  舞踏会をイメージして作られた、
  18の小品から成る素敵な曲です」
とのことだ。
ダヴィッド同盟舞曲集」は、1837年に作曲された。
ダヴィッド同盟とは、シューマンの理想を象徴する架空の同盟であり、
夢想的なオイゼビウスと情熱的なフロレスタンが登場する。
この作品が自費出版された当初、
作曲者のシューマンの名前は伏せられ、
オイゼビウスとフロレスタンの名で発表されたという。
シューマンには文学的な素質もあり、
10代の頃は、むしろ詩人を志していたと言われる。
シューマンの詩的なインスピレーションは、
この作品にも反映されており、
夢想的なオイゼビウスの世界、
情熱的なフロレスタンの世界が
音楽によって展開される。
(ちなみに、18の小品の最後には、それぞれ、
オイゼビウス、フロレスタンのイニシャルがつけられている)
優子さんは、刻々と移り変わる曲の流れを捉え、
ある時は優しく歌い、
またある時は豪快に鳴り響かせ、
魅力的な大きな物語を作り出した。
音の表情が豊かで、シューマンの夢や悩み、喜びが
まっすぐに伝わってくる。
水色のドレスもよく似合い、
花のように優雅な舞台姿だった。