ニューヨーク・フィル・ブラス・クインテット

ニューヨーク・フィルといえば、アメリカを代表するオーケストラ。
ウェスト・サイド・ストーリー」の作曲者としても有名な、
レナード・バーンスタイン音楽監督だった時代のLPレコード
グランド・キャニオン (グローフェ)」、
ラプソディー・イン・ブルー/パリのアメリカ人 (ガーシュウィン)」を、
私も愛聴した。
ニューヨーク・フィルのイメージとは、私にとって
明るく、輝かしいサウンドという感じなのだが、
それは、金管の活躍が心を躍らせるからだろう。
というわけで、ニューヨーク・フィルの首席奏者ばかりで結成されている
ニューヨーク・フィル・ブラス・クインテットのコンサートは、
存分に楽しめるものだった。
5人のうち、トランペットのフィリップ・スミス(ニューヨーク・フィル1978年入団)、
ホルンのフィリップ・マイヤーズ(同1980年)、
トロンボーンのジョゼフ・アレッシ(同1985年)の3名は、
ズービン・メータが音楽監督だった時代(1978〜91年)に、首席奏者として入団し、
約30年もの長い間、ニューヨーク・フィルサウンドを支えている。
首席チューバのアラン・ベイアー(同2004年)、
もうひとりのトランペットのイーサン・ベンストーフ(同2008年)の入団は、
ロリン・マゼール音楽監督だった頃(2002〜09年)のことである。
ニューヨーク・フィルの現在の音楽監督は、母が日本人であるアラン・ギルバートで、
就任当時、大変話題になった。
今後の来日公演では、ギルバートの若々しい指揮ぶりはもちろんのこと、
フィリップ・スミスをはじめとする金管群の円熟の技も、
ますます楽しみになるだろう。
トロンボーンのジョゼフ・アレッシのCDは、
1999〜2000年度のグラミー賞を受賞している。
これがジョージ・クラム作曲の「スターチャイルド」だったということは、
とてもインパクトがある。
今回私は、東京オペラシティで行われた演奏会に行った。
ブラスバンドをしている高校生らしき若い聴衆が大勢いて、
とても活気があった。
場内が暗くなり、ライトに照らされたステージに目を凝らしていると、
不意に、背後からトランペットのファンファーレが響いてきた。
思わず振り向くと、クインテットのメンバーが二手に分かれて、
客席後方からステージに向かい、演奏しながらゆっくりと歩いて来る。
やがてステージでも、上手、下手両方からメンバーが演奏しながら登場。
最後には全員がステージに揃い、ホールいっぱいに音を響かせた。
このオープニングは、これから始まるコンサートが面白くなりそうという
大きな期待を抱かせた。
プログラムは以下の通りである。

ニコラ・フェッロ:エントリー・ピース
ヨハン・ゼバスティアン・バッハトッカータアダージョとフーガ ハ長調 BWV564
ヨハネス・ブラームスハンガリー舞曲 第5番
ウジェーヌ・ボザ:ソナチネ
ミハイル・グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
ラムウェル・トーヴィ:サンタバーバラソナタ
アメリカン・ソングブック
 デューク・エリントン:スイングしなけりゃ意味ないね
 ルイス・シルバース:エイプリル・シャワー
 ジョン・カンダーニューヨーク・ニューヨーク

ニューヨーク・フィルのブラスのメンバーによるバッハやブラームス
興味深く、たっぷり超絶技巧を楽しんだが、
やはりなんと言っても、アメリカン・ソングブックで盛り上がった。
特に印象的だったのは、ブラスによる柔らかく繊細なハーモニーが
想像以上のすばらしさだったこと。
心を沸き立たせる生き生きとしたリズム、
エネルギッシュな響きの間を縫って、
どのように音を出しているのかと不思議になるほど
優しい情感に溢れた音を紡ぎ出す。
アメリカの古き良き時代の人々の、日々の喜びや哀しみに、
思いを馳せながら聴き入った。
アンコールは、ホール&クラインコーフの「ジョンソン・ラブ」、
ポラックの「ザッツ・ア・プレンティ」。
メンバーは重たそうな大きな楽器を楽々と抱え、
ステージを、踊るようにくるくる廻りながら
茶目っ気たっぷりに演奏。
最後まで私たちを楽しませてくれた。
終演後、サイン会に並んでいると、
後ろにいた高校生たちのおしゃべりが聞こえてきた。
「5人しかいないのに、あの音量!」
「さあ、明日から練習しよう!
 まずは腹筋からだなっ」