藤原道山さん(尺八)の新譜「天-ten-」

藤原道山さんのデビュー10周年記念アルバム、
「天-ten- 10th Anniversary BEST」が
リリースされた。
道山さんは、10歳で尺八を始め、
その後、人間国宝の山本邦山氏に師事。
東京藝術大学在学中から、積極的に活動。
このアルバムでも、各曲で、様々なアーティストと
尺八の多彩な世界を作り上げる。
シンセサイザー冨田勲さん、ピアノの武部聡志さん、
シタールの井上憲司さん、フラメンコギターの伊藤芳輝さん、
津軽三味線上妻宏光さん・・・などなど。
道山さんは、いろいろな長さの尺八を使い分け、
曲ごとに異なる表情を与える。
その中で、9曲目の武満徹作曲「小さな空」では、
一尺六寸、一尺八寸、二尺七寸、三尺一寸と
4本の尺八の音を重ねている。
メロディーを奏でるのは、
昔、学校で習ったリコーダーのような、
高い音のする尺八。
4本の尺八の音が醸し出すのは、
透き通っていて、なつかしい、
何だか尺八とは思えないような、不思議な響きだ。
「小さな空」は、日本を代表する作曲家、
武満徹氏の作詞作曲による合唱曲で、
50年近く昔のラジオドラマ「ガン・キング」の主題歌。
歌詞の一部をご紹介しよう。

 「青空みたら   綿のような雲が
  悲しみをのせて 飛んでいった」

ちなみに渡辺香津美さんと、鈴木大介さんは、
この曲を、ギターデュオで演奏しているそうだ。
片や4本の尺八、片や2本のギター・・・、
シンプルな曲であるだけに、様々な可能性があるのだろう。
13曲目の「鶴の巣籠(すごもり)」は、古典曲の独奏。
通常の尺八である、
一尺八寸を用いている。
いったん息を吹き込むと、その後は、
長く長く音を引き延ばす。
たった一つの音が、うねるように上下し、揺れ、
変幻自在に変わる。
ただ一つの音の行方を追うことは
春のうぐいす、秋の虫の音(ね)に耳を澄ますことに
通じるのだろうか。
大いなる自然に、抱かれているような感じだ。
このアルバムのために、唯一、道山さんが書き下ろした、
14曲目の「華 〜天翔る龍の如く〜」。
スペシャル・ゲスト、津軽三味線上妻宏光さんとの競演。
忍びやかに奏でられる三味線、
それに応えるように、ゆるやかに始まる尺八。
そして、二者の音が混ざり合い、
やがて、三味線が力強くリズムを刻み、
それに乗って、尺八が大らかに唄う。
尺八はだんだん動きを速め
まさに’〜天翔る龍の如く〜’自在に演奏を展開する。
そして突然、鮮やかな三味線のソロ。
「日本の華やかさを表現出来れば」とのことだが、
尺八と三味線で、このように
スピード感に溢れた豪快な演奏ができるのは、
やはりこの二人ならではだろう。
来週の3月23日(火)、NHKのBSハイビジョンで、
半年間、道山さんを密着取材して制作した
ドキュメンタリー番組が、放映される。
上妻さんとの競演のエピソードも、披露されるそうだ。

藤原道山|日本コロムビア