江口 玲さんのピアノ・リサイタル

ショパン −その人生と知られざる仲間たち」と題された
江口玲(あきら)さんのピアノ・リサイタルが、
浜離宮朝日ホールで行われた。
主にショパンポロネーズと、
マズルカ、そしてノクターンに焦点を当て、
どのようにしてそれらの曲が書かれたのかという
歴史的な考察もなされる、非常に意欲的な企画だ。
J.S.バッハフランス組曲第6番のポロネーズ
バッハの息子のW.F.バッハのポロネーズ
モーツァルトの息子のF.X.モーツァルトポロネーズなど、
ポロネーズだけでも、様々な作曲家の作品が紹介され、
とても興味深い。
江口さんの解説も、とても楽しくわかりやすい。
江口さんの話によると、ポロネーズは、
男女二人組みが行列となって格調高く踊るもので、
最前列のカップルは、最も身分の高い人たち。
列が長いほど盛大なものとなるのだそう。
跳んだりはねたりして踊るのではなく、
行進しながら踊る。
慶事ではもちろん、お葬式でも踊られるという。
ポロネーズという踊りを実際に見たことのある人は?」と
会場の聴衆に問いかける。
手を挙げた人は1人? しかいなかった。
すると、何とポロネーズの踊りを
これから見せてくれるというので驚いた。
江口さんのピアノに合わせて、
華やかなロングドレスをまとった女性、
エスコートする男性の列が、踊りながら舞台に現れた。
このように、そもそもポロネーズとは? という問いが、
多面的に解き明かされていく。
第1部の最後は、ショパンの代表作、
幻想ポロネーズ」で締めくくられた。
ショパンの意図を伝えてくれるような、説得力のある演奏は、
作曲家でもある江口さんならではのものだろう。
第2部も、ショパンが好んで演奏したという
ジョン・フィールドノクターン
ショパンの師、エルスネルのマズルカ
ショパンの弟子フィルチのコラール(なんと8歳の頃の作品!)など、
様々な作品が紹介され、聴きごたえがあった。
ショパン16歳から、死の年39歳までの間に書かれた
マズルカ9曲が続けて演奏されると、
ショパンの成熟、心境の変化がありありと伝わった。
異色だったのは、つい先ごろ(2001年)に亡くなった
ローズマリー・ブラウンというイギリス生まれの女性の
即興曲ヘ短調」と「バラード変ニ長調」。
これは、ショパンの降霊自動筆記作品と
言われている。
ブラウンはごく普通の女性で、ピアノも弾けないのに、
彼女にリスト、モーツァルトグリーグ
ドビュッシーショパンラフマニノフなどの霊が訪れ、
作曲できるようになったのだという。
江口さんは、ブラウンにベートーヴェンの霊が
乗り移ったところのフィルムを見たそうだ。
ブラウンは誰かと話していたかと思うと、
五線紙に、一気に曲を書きつけたという。
それが演奏されると、確かにベートーヴェンらしい
特徴があったそうだ。
今回の、ショパンの霊が乗り移った時に書かれた作品でも、
確かにショパンのようなメロディーラインや
装飾が現れる。
聴いていて、とても不思議な気持ちになった。
江口さんは、このリサイタルのために、
たくさんの資料、楽譜を研究したそうだ。
今までにない切り口のこのリサイタル、
ぜひとも続編を楽しみたいところである。