茂木健一郎さん著 「脳の王国」

ハーバード大学マイケル・サンデル教授から餃子屋のおじさんまで。
「“天才”“人生の達人”に学ぶ」ために、
茂木さんが取り上げる人物は、様々。
いろいろな場面で、「多様性を大切にせよ! 」と述べる
茂木さんの肉声が聞こえてくるような本だ。
週刊誌に連載されたエッセイをまとめた「脳の王国」では、
つい先頃話題になった、あの事この事が題材になっていて、
どれも身近に感じられる。
民主党政権交代を実現した2009年夏の総選挙、
2010年のNHK大河ドラマ龍馬伝」と主演の福山雅治さん、
2010年にGDPで日本を追い抜いた中国の高度経済成長、
日本の「ガラパゴス化」、サッカーのワールドカップ
新卒一括採用、ツイッター電子書籍iPad
イチロー選手、羽生善治さん、海老蔵さん、AKB48・・・。
これらを茂木さん流に、脳科学的に見ると、
私たちがこの時代を生きるヒントが、たくさん浮かんでくる。
世の中に生きる人々の多様性を大切にし、
自分自身も多様な経験を積み、変化していくことにより、
日本も個人個人も元気になるんだよ、という、
情熱と、叱咤激励と、怒りと愛にあふれる内容だ。
“結局、世間を変えるよりも、自分自身を変える方が簡単である。(中略)
 何よりも、自分自身が成長する大切なきっかけになる。(中略)
 自分一人が変われないのならば、
 当然日本という国も変わることなどできないのだ。” (革命の効用関数)
「脳の王国」では、坂本龍馬や、アインシュタインスティーブ・ジョブスのような、
歴史的、社会的に影響を与えた人物が多数登場するが、
それらの人物にも増して、私の印象に強く残ったのは、
茂木さんが小学校高学年だった時の担任、小林先生だ。
スポーツ向きでなく、さえない記録しかなかった茂木少年を、
小林先生は、市内水泳大会の選手に抜擢し、
夏休みに毎日登校させ、猛練習させる。
疲労が溜まり、思うように泳げなくなった茂木少年に、
小林先生は声をかけた。
練習を始めて二週間くらいで、疲労はピークに達するけれど、
我慢して練習を続けていると、ある時ふっと身体が軽くなり、
自由に手足が動くようになって、記録がぐんと伸びるんだ、と。
すると、先生の言う通り、その2、3日後に、バタ足がうまくいくようになり、
身体がふわっと軽くなって、記録も25mで2秒くらい短縮されたという。
茂木さんがその後、スポーツだけでなく、学問においても、
小林先生の教えを役に立てたことは、言うまでもない。
“学校の名前や、偏差値ではなく、
 教師の人柄の魅力こそが、子供をぐんと伸ばしてくれるのだ。
 私が通ったのはごく普通の公立小学校だったが、
 そこには素晴らしい「小林塾」があった” (理想の教育は「私塾」にあり)
実在の人物や事件を題材にしたエッセイ集であるが、
そこで語られていることは、みな、
私たち自身の生き方、考え方を振り返るヒントになる。
「その習慣は身につけた」、「その提案にはこれから挑戦」、
「その意見に私はハンターイ! 」などと、
自分も一緒になって、ひとつひとつ考えて読むと面白い。
最後に、この「脳の王国」の編集を担当された、
小学館の平田久典さんからのコメントをご紹介します。

「この一冊には、茂木さんがこの1年半の間に
 出会った人々から受けたエネルギーや時代の風、
 そして日本社会について思い巡らし、至った結論が
 濃縮されたかたちで記録されています
 (もちろん、今後さらにその考え、行動に磨きがかかっていくことは
 言うまでもありません)。
 連載期間中、一度も〆切に遅れることなく、
 忙しい海外出張でも原稿を送ってくださいました。
 それだけでも茂木さんがいかに1つ1つの文章に
 全身全霊で向かわれたかがわかります。
 ページ数も352頁と分厚く(でも1470円!)、
 巻末には畏友・内田樹さんとの対談も収録されています。
 一人でも多くの方に手に取っていただけたら嬉しいです」

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Kenichiro Mogi published a collection of essays, "Kingdom of the Brain".
He told that variety of human characteristics is important.
Having various experiences is essential for human development.