海原純子さん著 「大人の生き方 大人の死に方」

心療内科医の海原純子さんが、
毎日新聞の日曜版で連載していたコラム
「心のサプリ」をもとに加筆、
「大人の生き方」に焦点を当てたものが本書である。
海原さんは、次のように述べる。
 「今一度、年を重ね、自分独自の人生を歩むことについて
  考えるひとときを作ってほしいと思う」。
 「ものを作る、何かを研究する、など
  自分自身で作り出す楽しみが内在型目標である。
  心の内部にそうした若々しさのエネルギーを持つ大人は、
  あとに続く世代に生き方のメッセージを
  伝えることができるだろう」。
 「死を意識することは、生を存分に生きることである。
  本書のタイトルにはそうした意味が含まれている」。
海原さんは、ハーバード大学研究室と連携を取りながら、
情報格差、社会ネットワーク格差、経済格差と健康をテーマにした研究をし、
また、ジャズ・ヴォーカリストとしてライヴ活動を続けている。
海原さんのそうした独自の研究や個性的な活動、
患者に対する診察や治療、学生への指導など
様々な経験から書かれた本書の内容には、
深く考えさせられる。
その中でも特に、私の関心を引いた4点について、
海原さんの問題提起(要約)、アドバイス(原文のまま)という形にまとめ、
ご紹介したい。
1 国別ランキング「結果が不確実なことを避ける傾向」では、
 日本は対象の約40ヶ国の中で、最もその傾向が強い。
 (結果がはっきり良いとわかったものでないと一歩踏み出さない。)
 結果が不確実なことを避けないのはスウェーデンなどで、
 アメリカは両者の中間くらいである。
 「我々の社会は、結果が見えないと動かないという
  問題点に気づくことが、
  変化の第一歩になるかもしれない」。
 (「日本という国を見つめる」の章より)
2 日本でストレスの原因として多いのは
 「相手が思い通りになってくれない」というものだ。
 自分の脚本を相手に押しつけてしまう。
 相手は自分と同じように考えるものと思っていると
 ストレスが生まれる。
 「相手は自分と違って当然という認識は、
  こうしたストレスを軽くするかも。
  物差しが異なる人と上手に共存したい。
  そのためには、自分の物差しを押し通すでもなく、
  相手の物差しをうのみにするでもない
  コラボレーションが必要だろう」。
  (「自分の脚本を押しつけないで」の章より)
3 本当に一流と言われる人は、
 できない人や進歩ののろい人に対して温かい。
 苦手で苦しんでいる人が努力しているのを受け入れ、
 そっと手助けしてくれる。
 ところが、自分もたいしてできない人ほど
 厳しく他人を批判し、
 手助けしようとしない傾向がある。
 「自分が得意なことは優越感を感じて弱者を批判するのには使わず、
  手助けするために使うと
  温かいかかわりが生まれると思う」。
  (「細々でも続けることが幸せにつながる」の章より)
4 生活のなかで、「しなければいけないこと」と
 「したいからすること」の割合がどうなっているか、
 チェックをしてみてください。
 私(著者)は、これを「ネコの視点チェック」と名づけ、
 後者、つまりネコの視点の割合が高いほど、
 心の満足度も高いと考えている。
 時間は量でなく質なのだ。
 時間の質を高めるために「ムダな時間」を仕分けしてしまう。
 「仕事も遊びも人とのかかわりも、
  締め切りを意識すると
  自分の大切なものが見えてくる。
  もしあなたが今、
  病に倒れて死を意識しているなら、
  あなたは残された時間を
  宝石のようなひとときに
  変えることができる人なのだと思う」。